AI不正にどう対処するか。(その4)
前回、
下記論文をご紹介しました。
寺門・菅谷(2024)「日本語学習における
AI 機械翻訳の活用方法」
https://00m.in/oXiDe
今回は、上記論文から気になる部分を
引用しつつ、今後の生成AIとの向き合い
方について考えてみたいと思います。
まずは、「嫌いな学習」から。
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嫌いな学習も同様に複数回答可で回答
してもらった。その結果を図 2 に示す。
嫌いな学習で最も多い回答は「書く」で,
全体の61.9%を占めていた。
(中略)
このことから,「書く」学習に苦手意識
を持っている学習者が多いことがわかっ
た。
日本語のレベルを測る日本語能力試験に
おいても,認定の目安は「読む」「聞く」
の 2つの言語行動で表されており(8),
日本語で文章を書くことに慣れていない
ことが苦手意識を持つ原因の一つではな
いかと考えた。(p.2)
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これは、容易に想像できる結果でしょう。
日本語教師でも、
「私ももともと作文は嫌い。」
「日本語教育能力検定試験試験IIIの
記述問題が苦手。」
という方は多いのではないでしょうか。
ましてや、外国人が日本語で文章を書く
ハードルの高さといったら、
私たちの想像以上に高いと認識すべき
です。
そのベクトルを180度変えなければいけ
ないわけですから、
私たちも相当授業を工夫しなければな
らないということになります。
次に、「初級者が書いた文章と機械翻訳
で作成した文章」です。
これは、学習者が書いた文章を機械翻訳
で学習者の母語に翻訳し、
それをさらに日本語に翻訳するという
もので、
バックトランスレーションと呼ばれる
手法です。
その両作文の結果を比べたわけですね。
以下。
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表4 初級者が書いた文章と機械翻訳で作成
した文章
https://gyazo.com/813417e7fdddd4a31434ee72b4ba6a7b
初級者の文章はひらがなで書かれている
単語がかなり多いことがわかる。
「東京」や「食べる」,「海」といった単
語がひらがなで書かれているが,
これらの漢字は初級者もすでに学んでいる
漢字である。
機械翻訳で作成した文章では,ひらがなで
書かれた単語は基本的に漢字に直された。
さらに,「渋谷」や「焼肉」など日本語能
力試験や教科書で扱われない単語も漢字に
直された。
これらの結果から,機械翻訳で文章を作成
することで,漢字の復習や,新しい漢字を
知ることができると考えた。
学習者が書いた文章には文法的な間違いも
見られた。
例えば,「とうきょうの旅と思います」と
いう文章の場合,「東京の旅だと思います」
が正しい表現だと考えられる。
機械翻訳で作成した文章では,「旅」とい
う単語も「旅行」というより自然な単語に
変わっており,
「東京への旅行だと思います」という文章
になった。
また,「私と友だちいっしょにうみに行き
ました」や「インドネシアのきれいな場所
もたくさんあります」の文章では,
助詞の抜けや間違いが見られた。
機械翻訳が作成した文章では,「友達と私
は海に行きました」「インドネシアには美
しい場所がたくさんあります」となった。
これらの結果から,機械翻訳を通して文法
的な間違いを理解し,正しい表現を知るこ
とができると考えた。(pp.3-4)
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なるほど。
機械翻訳の文章と自分の文章を比べること
によって、
今までのように教師が手取り足取り教え
なくても、
ある程度、漢字学習や文法学習に効果的だ
というわけです。
これを効果的に使えば、自律的な学習者、
学習オートノミーに役立ちそうです。
ただ、私としては1つしっかり注意しな
ければならない点があると考えます。
それは、このバックトランスレーション
の結果に対する学習者のとらえ方です。
学習意欲の高い学習者であれば、先の
指摘通り、
「なるほど!確かにこの漢字、前に習っ
たな。覚えとこ。」
「そうか。ここは『に』じゃなくて、
『で』なのか。もう一回教科書を見て
復習しておこう。」
となると思いますが、
学習意欲の低い学習者の場合、
「どうせ機械翻訳の方が正しい日本語
を作ってくれるんだし、
どうあがいたって機械翻訳には敵わ
ないんだから、
あくせく作文の勉強をしたって意味
ないんじゃない?
とりあえず母語で書ければ、あとは
機械翻訳で何とかなるんじゃない?」
と、作文学習の意義を見失ったり、
自己効力感や自己達成感の著しい減退
を招いたりしてしまいかねない。
そもそもですが、新しい技術という
ものは、
それはそれはすごく便利なものである
わけですが、
同時に、それを使える人と使えない人
をえげつないほどに峻別してしまうと
いう側面も持ち合わせている、
そして、それは当人に能力の差として
強烈なインパクトを与えてしまう、
(ここで言えば、日本語力)
ということを、私たち教師は認識しな
ければならないと思います。
それは、まるでコロナ禍でオンライン
授業についていけなかった教師が、
どんどん退場させられた状況に似て
います。
そうやって、こぼれそうな学習者を
いかに救うか。
そこが、私たち教師の腕の見せ所で
はないかと思います。
この論文、とても面白いので、もう
少し話を進めます。
あっ、下記セミナーでは、上記のこと
にも触れようと思案しています。
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