『日本語教育の参照枠』を読む。(その8)
前回に引き続き
『日本語教育の参照枠報告』
https://qr.paps.jp/ShqFB
今回は、その8回目。
今日は、
「II 「日本語教育の参照枠」について」
の
「7 能力 Can do 一覧 」
のうち、
「(1)言語能力」と「(2)社会言語能
力」を扱います。
今回お、報告書内の表も極力テキストに
落とし込みました。
かなり長いですが、しっかり読み込んで
くださいね。
以下。
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7 能力 Can do 一覧
○ CEFR22では、コミュニケーション
言語能力を構成する能力として、言語能力、
社会言語能力、言語運用能力の三つを挙げ
て、
それぞれ言語能力記述文を示している。
「日本語教育の参照枠」では、この三つの
能力に関する言語能力記述文(能力 Can do)
を示す。
なお、翻訳については、CEFR日本語版
(2014 年追補版)23の訳文を基にし、2018
年のCEFR補遺版 24を参考に一部修正を
加えた。
(1)言語能力
○ 言語能力は、以下の六つの能力に分類
される。
1 語彙能力
2 文法能力
3 意味的能力
4 音声能力
5 正書法の能力
6 読字能力
○ CEFRでは、1〜6についての言語能
力記述文を示す前に、「一般的な使用可能言
語の範囲」として次の指標を示している。
言語構造的能力 / 使える言語の範囲
熟達した言語使用者
C2
正確に自分の考えを言語化したり、特定の点
を強調したり、区別したり、曖昧さを除いた
りするために、
包括的で確実な、非常に幅広く習熟した言語
の範囲を利用することができる。
発言内容を制限する必要は全く感じられない。
C1
自分が言いたいことを明確に言語化するため
に、幅広い使用可能な言語の範囲から適切な
表現を選ぶことができ、
その内容を制限する必要がほとんどない。
自立した言語使用者
B2
B2.2 自分自身が言いたいことを明確に述べる
ことができ、その内容を制限している感じを
与えることはそれほどない。
B2.1 言葉を探していることをそれほど感じさ
せずに、明確な描写や、自分の視点の表明、
議論の組立てが十分に可能なだけの言語の幅
を持っており、
複雑な文構造で使えるものもある。
B1
B1.2 予想外の状況を描写できるだけの十分な
言語の幅を持っており、ある程度の正確さで
考えや問題の主要点を説明することができ、
抽象的な内容や、音楽や映画といった文化的
な内容に関しても考えを述べることができる。
B1.1 何とか生活できるだけの言語能力は持っ
ている。語彙的な幅の狭さのために発言内容
に繰り返しが生じたり、
なかなか内容を言語化できなかったりするこ
ともあるが、
多少詰まったり回りくどかったりはしても、
家族や趣味や、興味のあること、仕事、旅行、
そして時事問題などについて、述べることが
できるだけの語彙を持っている。
基礎段階の言語使用者
A2
A2.2 大抵の場合、言いたいことを内容的に
妥協・制限したり、言葉を探したりする必要
があるが、
予測可能な日常的な状況に本人が対応するた
めに必要な、基本的な言語のレパートリーを
持っている。
A2.1 身辺状況、毎日繰り返して行われるこ
と、必要な事物、要求、情報の請求など、
具体的な欲求を満たすために必要な、簡潔な
日常的表現が作れる。
A2.1 基本的な構文を使うことができ、幾つ
かの単語や覚えた言い回しを使って、自分自
身や他人について、
職業、特定の場所、持ち物などに関してコ
ミュニケーションできる。
A2.1覚えた短い言い回しや、限られたレパー
トリーを駆使して、生活していく上で予測可
能な状況に対処できる。
しかし予想外の状況では、コミュニケーショ
ンが成り立たなかったり、あるいは誤解を生
んだりすることが多い。
A1
非常に基本的な範囲で、自分自身に関するこ
とや、具体的な要求を満たすための単純な表
現を知っている。
1 語彙能力
○ CEFRでは、語彙能力を、「言語の語
彙知識と、その語彙を使いこなす力で、語彙
的な要素と文法的な要素から成る」とし、
語彙知識の広さと、その知識を使いこなす能
力については、次のような例示的尺度がある
としている。
使用語彙領域
C2
定型表現や口語表現も含め、非常に幅広い語
彙のレパートリーを使うことができる。
コノテーション(含意)に対する意識もある。
C1
広い語彙レパートリーを使いこなせるし、言
い換えで語彙の不足を埋めることができる。
言葉を探したり、回避方略の使用がはっきり
と分かることはない。
定型表現や口語表現の使い方も上手である。
B2
本人の専門分野や大部分の一般的な話題に関
して、幅広い語彙を持っている。
語彙に不足があるために、時々詰まったり、
間接的な表現をすることもあるが、
頻繁な繰り返しを避けて、言い方を変えるこ
とができる。
B1
家族、趣味や関心、仕事、旅行、時事問題な
ど、本人の日常生活に関わる大部分の話題に
ついて、多少間接的な表現を使ってでも、
自分の述べたいことを述べられるだけの語彙
を持っている。
A2
A2.2 なじみのある状況や話題に関して、日
常的な生活上の交渉・取引を行うのに充分
な語彙を持っている。
A2.1 基本的なコミュニケーションの要求を
満たすことができるだけの語彙を持ってい
る。
A2.1 生活上の単純な要求に対応できるだけ
の語彙を持っている。
A1
特定の具体的な状況に関して、基本的な単語
や言い回しのレパートリーを持っている。
ただしそれらの間のつながりはない。
語彙の使いこなし
C2 一貫して正しく、適切に語彙が使用でき
る。
C1 時にはささいな言い間違いがあるが、大
きな語彙上の誤りはない。
B2
語彙的な正確さは一般的に高い。多少の混乱
や間違った単語の選択もコミュニケーション
を邪魔しない範囲である。
B1
複雑な考えや、非日常的な話題や状況に関し
て何かを述べようとすると、大きな誤りをす
ることがあるが、
初歩的な語彙は使いこなせる。
A2 具体的な日々の要求に関する狭いレパー
トリーの語を使うことができる。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
2 文法能力
○ CEFRでは、文法能力を、「ある言語の
文法全体に関する知識を持ち、またそれを使
う能力であると定義できる。」としている。
文法的正確さ
C2
(例えば、これから言うことを考えている
ときや、他人の反応をモニターしているよ
うなときといった)
他のことに注意を払っているときでも、複雑
な言葉について常に高い文法駆使力を維持し
ている。
C1 常に高い文法的正確さを維持する。
誤りは少なく、見付けることは難しい。
B2
B2.2:高い文法駆使力がある。時には「言い間
違い」や、文構造での偶然起こした誤りや些
細な不備が見られる場合があるが、
その数は少なく、後で見直せば訂正できるも
のが多い。
B2.1:比較的高い文法駆使力が見られる。
誤解につながるような間違いは犯さない。
B1
B1.2:なじみのある状況では、割合正確にコ
ミュニケーションを行うことができる。
多くの場合高いレベルでの文法駆使能力があ
るが、母語の影響が明らかである。
誤りも見られるが、本人が述べようとして
いることは明らかに分かる。
B1.1:比較的予測可能な状況で、頻繁に使わ
れる「繰り返し」やパターンのレパート
リーを、割合正確に使うことができる。
A2
いくつかの単純な文法構造を正しく使うこ
とができるが、依然として決まって犯す基本
的な間違いがある
—例えば、時制を混同したり、性・数・格な
どの一致
を忘れたりする傾向がある。
しかし、本人が何を言おうとしているのかは
大抵の場合明らかである。
A1
学習済みのレパートリーの中から、限られた、
幾つかの単純な文法構造や構文を使うことは
できる。
3 意味的能力
○ CEFRでは、意味的能力を「学習者が
持っている意味の組織構造についての意識や
意味の把握の能力に関わるもの」としている。
また、意味的能力は、語彙意味論、文法意味
論、語用意味論の三つの領域によって構成さ
れているとしている。
なお、意味的能力についての言語能力記述文
はない。
4 音声能力
○ CEFRでは、音声能力を「音声に関する
様々な要素について知覚し、創造することが
できる知識と技能である。」としている。
音素の把握
C2 C1と同じ
C1
より微妙なニュアンスを表現するために、
イントネーションを変化させたり、文の特定
部分を正しく強調することができる。
B2 はっきりとした、自然な発音やイント
ネーションを身に付けている。
B1
時には外国語なまりが目立ったり、発音の間
違いもあるが、大体よく理解できるくらいに
発音は明瞭である。
A2
話の相手から時々、繰り返しを求められるこ
ともあり、明らかな外国語なまりが見られる
ものの、
大体の場合、発音は理解できる程度にははっ
きりとしている。
A1
非常に限られたレパートリーの、学習・練習
済みの単語や言い回しなら、
当人の言語を聞き慣れている熟達した日本語
話者であれば、多少努力すれば理解できる。
5 正書法の能力
○ CEFRでは、正書法の能力を「文字テク
ストの受容及び創造の際に必要であり、文字
テクストを構成する記号に関する知識と、
それを使う技能である。」としている。
6 読字能力
○ CEFRでは、読字能力について、「言語
使用者があらかじめ準備されたテクストを音
読したり、
文字で最初に目にした単語を発話の中で使わ
なければいけない場合には、
文字で書かれたものを正しく発音できなけれ
ばならない。」と説明している。
正書法の把握
C2 正書法の誤りなしに文章を書くことがで
きる。
C1
レイアウト、段落切り、句読点の打ち方が統
一されており、読者にとって読みやすい。
つづりは、時々ささいな間違いがある以外は
正確である。
B2
標準的なレイアウトや段落切りの慣習に従っ
て、ある程度の長さのはっきりと理解できる
文章を書くことができる。
母語の影響を見せることもあるが、つづりや
句読点の打ち方はかなり正確である。
B1
読者が理解できる、ある程度の長さの文章を
書くことができる。
つづりや句読点、レイアウトなどは、ほとん
どの場合読者を混乱させない程度に正確であ
る。
A2
日常的な話題に関する短い文を書き写すこと
ができる。
例えば、道順の説明など。
当人が話す語彙に含まれる短い単語の音声を、
(完全に標準的なつづりではない場合もある
が)割合に正確に文字化することができる。
A1
例えば、簡単な記号や指示、日常的な物の名
前、店の名前やふだん使う定型表現など、
なじみのある単語や言い回しを書き写すこと
ができる。
当人の住所、国籍やその他の個人的な情報を
正確に書くことができる。
(2)社会言語能力
○ CEFRでは、社会言語能力を、「言語
使用の社会的な次元に対処するために必要な
知識と技能である。」とし、
例示的な尺度を示している。
社会言語的な適切さ
C2
慣用句的表現や口語表現をうまく使いこなせ、
コノテーション(含意)も分かっている。
熟達した日本語話者が言語を使用する際の実
質的に全ての社会言語的、
および社会文化的な意味を十分に理解し、
適切に応じることができる。
社会文化的、及び社会言語的な違いを考慮し
ながら、日本語話者と自分自身の生活地域の
言語の話者との間を、
効果的に仲介することができる。
C1
幅広い慣用句的な表現や口語表現を認識する
ことができ、言葉の使用域の変化も理解でき
る。
しかし、特に聞き慣れないなまりの場合、
時々細部を確認する必要があるかもしれない。
俗語や慣用句がかなり使われている映画の筋
を追うことができる。
感情表現、間接的な示唆、冗談などを交ぜて、
社交上の目的に沿って、柔軟に、効果的に言
葉を使うことができる。
B2
B2.2 公式の言葉遣いでも、くだけた言葉遣い
でも、その場や会話の参加者に応じた適切な
言葉遣いで、はっきりと理解できる。
礼儀正しい言葉遣いで、自分自身の述べたい
ことを自信を持って言うことができる。
B2.1 話の速度が速く、口語的であっても、
ある程度の努力をして、グループ討議に付い
ていくことができ、
また参加することができる。
B2.1 熟達した日本語話者との対人関係を維
持できるが、
その際、当人の意図に反して熟達した日本
語話者がおかしがったり、いらつくことは
なく、
また熟達した日本語話者が当人と話す際、
熟達した日本語話者同士の場合と違った話
し方をしなくてすむ。
B2.1 言語化する際に深刻な誤りを犯すこ
となく、いろいろな場面で自分自身の述
べたいことを表現することができる。
B1
中立的な、ごく一般的な言葉遣いで、幅広
い言語機能を遂行し、対応できる。
明示的な礼儀慣習を認識しており、適切に
行動できる。
目標言語の文化と当人自身の文化との間の、
慣習、言葉遣い、態度、価値観や信条につい
て、最も重要な違いに対する認識があり、
それを配慮することができる。
A2
A2.2 例えば、簡単な形で情報を交換、請求
したり、意見や態度を表明したりするなどの、
基本的な言語機能を実行でき、また応じるこ
とができる。
A2.2 最も簡単な、一般的な表現や、基本的
な慣習に従って、単純な形ではあるが、
効果的に交際を維持することができる。
A2.1 日常的に使われる挨拶や呼び掛けなど、
礼儀正しい言葉遣いで、短い社交的な会話を
行うことができる。
招待や提案、謝罪などを行ったり、それらに
応じることができる。
A1
挨拶やいとまごい、紹介、「〜してください」、
「どうもありがとう」、「すみません」などの、
最も簡単な日常的に使われる丁寧な言葉遣い
で、基本的な社交関係を確立することができる。
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いかがでしょうか。
それにしても長かったですね。
でも、能力Candoは、これで半分です。
それだけ重要な能力ということですね。
次回は後半です。
しっかり読み込んでいきましょう。