『日本語教育の参照枠』を読む。(その4)
前回に引き続き
『日本語教育の参照枠報告』
https://qr.paps.jp/ShqFB
今回は、その4回目。
今日は、
「II 「日本語教育の参照枠」について」
の
「1 構成」
です。
かなり長いですが、本報告書の根幹ですので
にしっかり読み込んでいきましょう。
の、報告書内の図についてはリンクを貼り
ましたので、こちらも必ずご参照ください。
以下。
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(1)「日本語教育の参照枠」とは
○ 「日本語教育の参照枠」とは、日本語の
習得段階に応じて、求められる日本語教育
の内容及び方法を明らかにし、
外国人等が適切な日本語教育を継続的に受
けられるようにするための、
日本語教育に関わる全ての人が参照できる、
日本語学習、教授、評価のための枠組みで
ある。
○ 「日本語教育の参照枠」を参照すること
により期待される効果は、以下のとおりで
ある。
1 社会
・日本語学習者の周囲の人々(家族、友人、
職場の人、地域住民等)による日本語学習
者の日本語能力の熟達度の把握が可能とな
り、
日本語学習者を支える環境が醸成される。
・日本語教育に関わる全ての人が共通の指
標を参照し、お互いの知見を共有し連携す
ることで、
日本語教育全体の質の向上につながる。
2 行政機関
・国や地方公共団体等が地域日本語教育の
目標や方針、教育内容を設定するために参
照することにより、
自立した言語使用者として必要となる日本
語の学習環境の整備につながる。
3 教育機関・日本語教師
・ 分野別の言語能力記述文が整備される
ことにより、日本語教育機関が各分野に応
じた学習目標の設定ができ、
必要な日本語能力の習得につなげることが
できる。
・日本語教師が日本語学習者の熟達度を客
観的に把握し、具体的な教育活動の設計や
評価が可能になる。
4 試験機関
・学習・教育内容の多様化が進む中、各試
験が判定する日本語能力についての共通の
指標を整備することによって、
複数の日本語能力の判定試験の間の通用性
が高まる。
5 日本語学習者
・日本語学習者が自らの日本語能力の熟達
度を客観的に把握したり、具体的な学習目
標を設定して自律的に学習を進めたりする
ことができるようになる。
・日本語学習者が国や居住地、教育機関を
移動しても、共通の尺度での日本語能力証
明が行えることにより、
適切な日本語教育を継続的に受けることに
つながる。
(2)言語教育観の三つの柱
○ 「日本語教育の参照枠」では、6ページ
のとおり、言語教育観として三つの柱を挙
げており、
全ての指標はこの考えに基づいて示されてい
る。
1 学習者を社会的存在として捉える。
2 言語を使って「できること」に注目する。
3 多様な日本語使用を尊重する。
○ この三つの言語教育観の柱は、CEFR
において、社会的存在(social agents)、部
分的能力(partial competences)、複言語主
義(plurilingualism)として示されている概
念を参考にしつつ、
日本語教育の文脈から捉え直したものである。
○ これら三つの概念を基盤として、CEFR
は、行動中心アプローチ(actionoriented
approach)を示している。
行動中心アプローチとは、多様な背景を持つ言
語の使用者及び学習者を、生活、就労、教育等
の場面において、様々な言語的/非言語的な課
題(tasks)を遂行する社会的存在として捉える
考え方のことである。
○ 行動中心アプローチにおける言語教育の目
標とは、言語の使用者及び学習者がそれぞれの
社会で求められる課題を遂行できるようになる
ことである。
したがって、学習者は、文法や語彙の難易度、
言語活動間のバランスにかかわらず、課題を遂
行するために必要な事柄から学ぶことができる。
(3)言語熟達度に関する二つの指標
○ 言語教育観の三つの柱の次に示すのは、
CEFRにおいては、共通参照レベル(Common
Reference Levels)として示されている「全体
的な尺度(22 ページ)」、
「言語活動別の熟達度(23 ページ)」という二
つの指標である。
これらは「日本語教育の参照枠」における最も
包括的な指標である。
○ 「全体的な尺度」とは、日本語能力の熟達
度をCEFRと同様に、A1からC2の六つの
レベルに分け、
各レベルで日本語を使ってどのようなことがで
きるかについての概要を、言語能力記述文で示
したものである。
○ 「全体的な尺度」の次に位置する指標は、
「言語活動別の熟達度」である。
これは「全体的な尺度」を「聞くこと」、
「読むこと」、「話すこと(やり取り)」、
「話すこと(発表)」、「書くこと」の五つに
分けて、
それぞれの言語活動とレベルにおいて、どの
ようなことができるのかを示したものである。
この指標は、日本語教師だけでなく、日本語学
習者が自分の日本語能力を把握するためにも活
用できる。
○ CEFR共通参照レベルでは、「話すこと」
を「話すこと(やり取り)」と「話すこと(発
表)」に分けている。
それは相手の様子を見ながら、あるいは助けを
借りながら行う「やり取り」と、ある程度まと
まった産出を行う「発表」とでは、
必要とされる能力の範囲が異なるという考え方
に基づいているためである。
○ さらに、「言語活動別の熟達度」と対になる
指標として、
語彙や文法的正確さ、流ちょうさなどの言語能
力についての熟達度を示した「話し言葉の質的
側面」がある。
この「話し言葉の質的側面」については、各指
標を簡潔に提示するため、巻末の参考資料2に
示した。
○ 「日本語教育の参照枠」では、「全体的な
尺度」、「言語活動別の熟達度」及び他の言語
能力記述文の中に見られる「母語話者」という
表現を修正した。
言語教育観の柱として「母語話者が使用する日
本語の在り方を必ずしも学ぶべき規範、最終的
なゴールとはしない。」(6ページ)というこ
とを掲げているためである。
CEFR補遺版においても「母語話者」という
表現は修正されており、
修正後の文言についてはCEFR補遺版を参考
に、「熟達した日本語話者」と言い換えた。
(4)言語能力記述文
○ 言語能力記述文とは、社会的存在である言
語の使用者及び学習者が、生活、就労、教育等
の場面で遂行していく必要がある課題を、
言語を学ぶ上での目標として具体的に示したも
のである。
○ 言語能力記述文は、言語を使ってできること
について、「~できる」という形で示された文
である。
個別の言語能力記述文を Can do(Can do
statements の略)と呼ぶこともある。
○ 「日本語教育の参照枠」では、二つの指標の
次に位置するものとして、
4種類(活動、方略、テクスト、能力)の言語
能力記述文を示している。
これらの言語能力記述文は、言語活動においては
「広報・アナウンスや指示を聞くこと」、「説明
書を読むこと」、「情報の交換」、「長く一人で
話す:経験談」、「通信」など、
言語能力においては「文法的正確さ」、「音素の
把握」などのCEFRと同様のカテゴリーを設け
ており、
言語能力記述文を検索する際に参照される。
○ 「日本語教育の参照枠」では、CEFR(2001)
に収録されている言語能力記述文(CEFRCan do)
に基づき、
493 の「日本語教育の参照枠 Can do」を収録
している。
○ このうち活動 Can do については、「母語
話者」を「熟達した日本語話者」、「標準語」
を「共通語」と言い換えたり、
「コノテーション(含意)」のように言葉を補っ
たりするなど、43 項目について修正を加えている。
○ これらの言語能力記述文は、日本語による
コミュニケーションを行うための行動目標となり、
教師はそれに沿ったコースデザインや学習活動の
設計に生かし、学習者は自身の日本語能力を評価
するために活用できる。
○ また、複数の教育機関や企業等が共通の指標
や言語能力記述文を参照することにより、
学習者は、転居や転職によって日本語を学ぶ場が
変わったとしても、継続的な日本語学習が可能と
なる。
○ 「日本語教育の参照枠」の使用者は、次ペー
ジ図1のとおり、「全体的な尺度」、「言語活動
別の熟達度」、「言語能力記述文(日本語教育の
参照枠 Can do)」のレベルに基づいて、
生活・留学・就労等の分野別の言語能力記述文
(Can do)を参照したり、
様々な現場に合わせて個別の団体・教育機関等
が自由に「現場Can do」を選択・作成すること
が期待される。
○ 独立行政法人国際交流基金がCEFRを参照
し作成した「JF日本語教育スタンダード」
(参考資料3参照)において示されているJF
Can do の他、生活分野の言語能力記述文として、
日本語を母語としない外国人が在留資格「特定技
能」等で来日する場合、日本での生活場面で求め
られる基礎的な日本語コミュニケーション力を
「JF生活日本語 Can-do(JF Can-do for Life
in Japan)」として 381項目にまとめている。
○ 文化庁では、「「生活者としての外国人」に
対する日本語教育の標準的なカリキュラム案に
ついて」の「生活上の行為の分類」の分類項目
をもとに、
A1からB1まで(一部B2レベルを含む)の
「生活 Can do」の作成を進めており、令和3年
度末に完成予定である。
○ 就労分野の言語能力記述文としては、厚生労
働省が、企業などで外国人従業員とその上司・
同僚などが円滑にコミュニケーションを図れる
ように、
外国人従業員の日本語能力を確認し、目標設定
を行うことのできるツール「就労場面に必要な
日本語能力の目標設定ツール」(参考資料4参
照)とその使い方の手引きを作成しており、
その中で、就労場面において日本語を使ってで
きること(言語活動)の目安として 49 項目を
「就労 Can do リスト」として公表している。
○ 今後、「日本語教育の参照枠」を参照し、
国内外の就労、就学・進学、学術研究、あるい
は子育て等の広範な分野及び多様な現場におい
て、一定の質が保たれた言語能力記述文が開発
され、
それを参照した教育モデルが普及することが期
待される。
子供に対する日本語指導と「日本語教育の参照
枠」
一口に子供に対する日本語指導と言っても、国
内の学校に在籍し、日本語を第二言語として学
ぶ国籍に関わらない「外国につながる子供たち」、
海外の中等教育機関で外国語として日本語を学
ぶ生徒たち、
あるいは海外で継承語として日本語を学ぶ「日
本につながる子供たち」など、その姿は多様で
す。
子供の身体の中で育まれる言葉と文化は、年齢、
言語・文化的背景、住んでいる地域などによっ
て異なり、
子供一人一人にとって最適な指導を考えていく
必要があると言えるでしょう。
欧州評議会は、 ヨーロッパ言語ポートフォリオ
が子供向けの言語能力記述文として関連付けられ
るかどうかの検証を7歳から 10 歳までと、
11 歳から 15 歳までに分けて行なっています。
その結果、現時点では関連付けられない言語能力
記述文が多くあり、
特に7歳から 10 歳までの C レベルの言語能力
記述文のほとんどが、この年齢層のコミュニケー
ションニーズと関連性がない認知的・社会的成熟
度を示していること、
11 歳から 15 歳も多くの能力記述文が子供の発
達や知識に応じて修正が必要であることを報告し
ています。
このように、子供に対する日本語指導には、子
供の発達に応じた言語能力記述文が必要となりま
す。
したがって、現行の「日本語教育の参照枠」に
示された言語能力記述文を参照する際には、
それらが子供の指導に適切かどうかを慎重に見
極める必要があります。
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いかがでしょうか。
今回は、どこも重要な所ばかりですので、
何度も読んでしっかり理解しましょう。