『日本語教育の参照枠』を読む。(その1)

先日の竹田先生のセミナーで、

「皆さん、『日本語教育の参照枠』を
 読んだことはありますか。」

という竹田先生の問いに、だいたいの
方は「ざっとは読んだ」と答えたものの、

「読んだことがない」という方も
ちらほら。

「これはいかん!」

今後の日本語教育の方向性を知る上で
絶対に知っておかなければならない
資料。

『日本語教育の参照枠報告』
 https://qr.paps.jp/ShqFB

本報告書は3年前に発表されましたが、
今年5月の日本語教育機関関連法成立
によって、

その重要性がより明確になったと感じて
います。

そこで、今回から数回にわたり、

「『日本語教育の参照枠』を読む。」

と題して、本報告書を読んでいきたいと
思います。

第1回目の今日は、

「〇はじめに」

一見読み飛ばしてしまいそうですが、
本報告書の背景を知る上では非常に
重要です。

以下。

===================

○ はじめに

本報告は、国内外における日本語学習者の
日本語の習得段階に応じて求められる日本
語教育の内容及び方法を明らかにし、

外国人等が適切な日本語教育を受けられる
ようにするため、

学習、教授、評価に係る日本語教育の包括
的な枠組みを示すものです。

国内外を行き来する多様な日本語学習者、
そして日本語教師をはじめとする全ての
日本語教育関係者が、

この「日本語教育の参照枠」を参照し、

生活、就労、留学といった外国人の活動状
況に応じた日本語教育の基準や目標を定め
ることが容易になるよう取りまとめました。

我が国に在留する外国人は、令和元年末に
は約 293 万人(総人口の約 2.32%)に上
り、過去最高を記録しました。

令和 2 年末には新型コロナウイルス感染
拡大の影響等により、

約4万人減少し約 289 万人となったもの
の、

「出入国管理及び難民認定法」が改正、施
行された平成2年末の約 108 万人と比べて
約 3 倍に迫る数となっています。

このうち、日本で就労する外国人も令和2
年 10 月末時点で約 172 万人と過去最高
となるなど、

今後も更なる在留外国人の増加が見込まれ
ています。

海外においても、世界の 142 か国・地域
で日本語教育が行われ、

海外の日本語学習者数は約 385 万人と
なっています。

出身国・地域、文化、年齢、在留資格、職
業、滞在目的等の多様化が進み、

日本語の学習を希望する外国人等が望む
日本語教育も多様化する一方で、

それに対応した国内外における多様な学び
の連関を図ることが課題となっています。

外国人等の日本語能力を判定する方法とし
て国内外で様々な試験が実施され、

個々の指標に基づき、レベルや判定基準等
が設定されていますが、

学習・教育内容の多様化が進む中、各試験
が判定する日本語能力についての共通の指
標を整備し、

利用できるようにすることが必要となって
きました。

地域の日本語教室では、外部の試験団体が
実施する試験の測定結果に基づく評価を必
要としない者も少なくないという状況があ
る一方で、

日本語の熟達度を判定する共通かつ簡易な
評価指標がなく、

評価ツールなども整備されていないことが
課題となっています。

そこで、いわゆる試験による評価ではなく、
日本語教育の個々の現場で実施できるパ
フォーマンス評価の方法と

事例及びポートフォリオによる評価や自己
評価などの多様な評価の方法と事例につい
ても幅広く示していくことが求められてい
ます。

文化庁では、平成 24 年 5 月に日本語教育
小委員会の下に「課題整理に関するワーキ
ンググループ」を設置し、

日本語教育を推進する意義等について再確
認するための検討を行い、

「日本語教育の推進に向けた基本的な考え
 方と論点の整理について」
(平成 25 年 2 月 18 日報告)を取りま
とめました。

この中で、日本語教育の推進に当たっての
主な論点として

「論点3.日本語教育の標準と日本語能力
 の判定基準について」が挙げられていま
す。

政府は、「外国人材の受入れ・共生のため
の総合的対応策」(平成 30 年 12 月 25 日
外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚
会議決定、令和元年 12 月 20 日、令和2
年 7 月 14 日、令和3年6月 15 日改訂)
を取りまとめ、

そこでは、外国人を日本社会の一員として
受け入れ、外国人が社会から排除されるこ
と等のないようにするためには、

より円滑な意思疎通の実現に向け、いわゆ
る第二言語としての日本語を習得できる
ようにすることが極めて重要とされていま
す。

令和元年6月 28 日に公布・施行された
「日本語教育の推進に関する法律」(令和
元年法律第 48 号)では、第 1 条におい
て、

「多様な文化を尊重した活力ある共生社会
の実現に資するとともに、諸外国との交流
の促進並びに友好関係の維持及び発展に寄
与すること」が目的として掲げられました。

また、同法第 22 条においては、「日本語
教育を受ける者の日本語能力に応じた効果
的かつ適切な教育が行われるよう、

教育課程の編成に係る指針の策定、指導方
法及び教材の開発・普及並びにその支援
その他の必要な施策を講ずる」旨の規定が
盛り込まれました。

政府は、この法律に基づき、「日本語教育
の推進に関する施策を総合的かつ効果的に
推進するための基本的な方針」を令和2年
6月 23 日に閣議決定し、

日本語教育の推進の基本的な方向や具体的
施策例などの内容等を定めました。

この中で、「ヨーロッパ言語共通参照枠
(Common European Framework of Reference
for Languages: Learning, teaching,
Assessment)」(以下、CEFRという。)
を参考に、

日本語の習得段階に応じて求められる日本
語教育の内容・方法を明らかにし、

外国人等が適切な評価を受けられるように
するため、

「日本語教育の参照枠」を作成することと
しています。

これらを踏まえ、令和元年度に日本語教育
小委員会の下に「日本語教育の標準に関す
るワーキンググループ」を設置し、

令和2年度からは「日本語能力の判定基準
に関するワーキンググループ」を設置し、

審議を進め、今般「日本語教育の参照枠」
の取りまとめに至ったものです。

本報告は四つの章で構成されています。

第I章では、「日本語教育の参照枠」の検討
経緯として現状と課題について整理しまし
た。

第II章では、「日本語教育の参照枠」につ
いてとして

「1 日本語学習者を社会的な存在として
 捉える」、

「2 言語を使って「できること」に注目
 する」、

「3 多様な日本語使用を尊重する」

という言語教育観の三つの柱を示しました。

その上で、CEFRを参考にA1からC2
までの六つの日本語のレベルと、

「聞くこと」、「読むこと」、「話すこと
(やり取り)」、「話すこと(発表 )」、
「書くこと」の五つの言語活動を設定する
等の方針を示しました。

また、「日本語教育の参照枠」における包
括的な指標として、

日本語能力の熟達度を六つのレベルで示し
た「全体的な尺度」及び六つのレベルを五
つの言語活動ごとに示した「言語活動別の
熟達度」を掲載しました。

さらに、社会的存在である言語使用者及び
学習者が言語を学ぶ上での目標を具体的に
示した「言語能力記述文(Can do)」につ
いて説明し、

約 500 の Can do を示しました。

今後、生活、就労、留学などの分野別の言
語能力記述文が作成され、追加されていく
ことが期待されます。

第III章では、日本語能力評価について、
「日本語教育の参照枠」における言語教育
観に基づく評価の三つの理念を示し、

日本語能力観と評価の考え方についてまと
め、

日本語教育における多様な評価の在り方を
事例と共に紹介しています。

さらに、日本語能力判定のための試験等に
ついて、日本語能力の判定試験と「日本語
教育の参照枠」の対応関係を示す方法を示
しました。

また、社会で活用される日本語能力の評価
・試験に求められる主な要素や社会的ニー
ズに応える適切な日本語能力判定の在り方
等について提言しています。

第IV章は、参考資料として「言語能力記述
文の作成方法及び検証手法に関するガイド
ライン」等の資料を収録しました。

今後、本報告が国内外の多様な日本語教育
の現場において日本語教育の共通の指標と
して参照され、

多様な日本語教育の現場で用いられ、国内
外の日本語教育関係者や日本語学習者がお
互いの教育実践をめぐる知見を共有し連携
することにより、

日本語教育の質の更なる向上が図られ、

もって共生社会の実現に寄与することを望
みます。

また、日本語教育関係者及び外国人等と共
に暮らし働く人々が、日本語能力評価に関
する理解を深めていただく一助となること
を願います。

同時に、多様な日本語教育の目的に応じた
質の高い日本語能力の評価方法が開発され、
適切に実施され、

より良い日本語の能力判定の方法が普及す
ることにより、日本語を学ぶ方々にとって
役立つこと、

日本語教育の一層の推進に寄与することを
望むものです。

===================

いかがでしょうか。

背景の文脈をご理解いただけましたで
しょうか。

ここで

「参照枠って、どういうこと?
 ただ参考にするだけ?

 それでちゃんと社会的に評価される
 評価ツールとして機能するの?

 そもそも誰がどうやって評価するの?」

そんな疑問を持たれた方もいるかと思い
ます。

そのあたりも含め、しっかり読んでいきたい
と思います。


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