日本語教師、10年経ったら教材出版を。
浅倉美波他(2000)『日本語教師必携 ハート&
テクニック』アルク
https://amzn.to/46QPUYV
に、以下のような一節があります。
(とてもいい本ですので、お勧めです(^_^))
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10年間教え続けたある2人の教師について
こんな話があります。
それは、一人は10年分の経験を積み重ね、
もう一人は1年分の経験を10回繰り返した、
というものです。
この例えが物語るのは、実践経験の蓄積が
教師にとって成長の糧となる場合もあれば、
そうでない場合もあるということです。
(p.145)
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同じことを繰り返しても、それは成長
には繋がらないことをこの一節は教えて
います。
日本語教育機関に勤めていたり、
あるいは、プライベートレッスンを
していると、
学習者は定期不定期にどんどん入れ
替わり、
そんな彼らと接しているだけで、
日々新鮮な刺激を受けているように
感じますが、
(実際、そういう側面もありますが)
ふと、自分のこれまでの教育活動を
振り返ってみて、
▼10年間同じテキストを使って
▼10年間同じ指導手順で
▼10年間同じタイミングで古びた
ジョークを飛ばす
そんな風になっているとしたら、
冒頭に掲げた、
「1年分の経験を10回繰り返した」
だけの、教師として成長の糧となって
いないルートをずっと歩んできたと
いうことになるのかもしれません。
「仕方がないじゃないか。
テキストの選定は勤務校が
決めるんだから。
私にそんな決定権はないん
だから。」
そんな声も聞こえてきそうですが、
そもそも完璧なテキストなどあり
ませんし、
10年も経てば、どんなテキストも
世の中の変化と微妙にずれてくる
のは必至。
また、昨今のように学習者の多様化
がさらに細分化されれば、
既存の教材ではぴったりくるものが
ない!
ということにも気づいているか、
感じているか、ということ。
日々真剣に学習者に向き合えば向き
合うほど、
既存の教材のありがたさが身に染みる
と同時に、
そうした教材に対して、強烈な違和感を
感じるはずなのです。
要は、そうした違和感を感じ続け、
そして、それを解決するための行動を
取っているか、ということ。
私自身、日本語教師になって10年
経った頃から、
「来日直後の外国人にスムーズに
日本の生活に馴染めるような
教材がない。」
と痛感し、
少し教材を作っては授業で試し、
上手く行かなければさらに改良して
また授業で試す。
そんな試行錯誤を繰り返し、数年越しで
来日直後の初級~初中級学習者向け日本事情
教材『日本総論I』
https://www.kanjifumi.jp/teacher/generalstatement/
を開発しました。
この教材は、写真をふんだんに使って
いますが、
そのうちの半分以上は、実際に私が
デジカメをもって撮りに回りましたし、
そうでないものは、1つ1つ著作権者と
コンタクトを取って交渉し、掲載にこぎ
つけました。
また、その過程でたくさんのことを学ば
せていただきましたし、
なぜ日本事情の教材が少ないのかも
よくわかりましたし、
既存の教材や開発者の方々へのリスペクト
も高まりました。
こうした経験から言えることは、
「日本語教師になって10年後には
何がしかの日本語教材を出版する。」
という目標を持って日々の活動に
取り組んでみてはどうか、
ということ。
そうすれば、
▼日々の活動に真剣に取り組むようになり
▼既存の教材を徹底的に研究するようになり
▼教師としてスキルアップに励むようになり
▼既存の教材がまだ手を付けていない分野
に気づくようになり
▼その違和感を克服すべく、試行錯誤を
しながら、指導ネタを蓄積するように
なり
その他もろもろを通じて、教師として
倍速に成長することに繋がるでしょう。
教材開発という明確な目標を打ち立てれば、
今日から授業への取組がまったく変わって
来るはずです。
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一人は10年分の経験を積み重ね、もう一人
は1年分の経験を10回繰り返した。
この例えが物語るのは、実践経験の蓄積が
教師にとって成長の糧となる場合もあれば、
そうでない場合もある。
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10年後の自分は、どちらを望みますか。
今からでも、いくらでも変われます。