「技能実習制度のあり方」(たたき台)を読む(その4)。
引き続き、法務省のサイト
技能実習制度及び特定技能制度の在り方
に関する有識者会議(第5回)
https://bit.ly/43rLO7M
より。
ここ最近、にわかに本制度廃止後どうなる
かという話をよく聞くようになりました。
本制度の廃止は、日本語教師にとって
朗報という見方があります。
というのも、
技能実習制度から特定技能制度に大きく
移行することによって、
外国人労働者の日本語力のハードルが
高まり、
結果、特に送り出し国での日本語教師の
需要が増えるからです。
実際、多くの送り出し国では、制度廃止
を見据え、日本語教師の採用が増えてい
ると聞きます。
そういう意味で、本問題は私たち日本語
教師にとってとても重要なんですね。
第4回の今回も、実際に下記資料をつぶさに
みていこうと思います。
中間報告書 ( たたき 台 )
https://bit.ly/3L6RgpH
このうち、今回は「第3 委員の意見」の中の
「2 人権侵害の防止その他外国人にとっても
我が国にとってもプラスとなる仕組みと
するための方策について」の前半を。
今回もかなり長いですが、特に今問題となって
いる【転籍】について触れていますので、
しっかり読んでいきましょう。
以下。
===================
2 人権侵害の防止その他外国人にとっても
我が国にとってもプラスとなる仕組みと
するための方策について
(1)転籍の在り方(技能実習)
(転籍制度の必要性)
○ 技能実習制度は、技能修得等を通じた人材育
成を制度目的としているため、
実習実施計画に従い、実習実施者である一つ
の雇用主の下で実習を続けることが必須の条
件であり、転籍を原則として認めていない。
このために、雇用主が無理なことを言っても
技能実習生は従わざるを得ず、
それが技能実習生への様々な人権侵害を発生
させる基礎的な背景・原因となっている。
○ 日本国内の人材確保が目的であるとすれば、
他の在留資格と同様に、原則として転職を禁
止する理由はない。
転籍制限があることにより、外国人材を雇用
主に大きく従属させる可能性があり、
彼らが権利を行使することを間接に妨げてい
るというILOの指摘は重いものである。
暴行や虐待、秘密裏の出産という普通の雇用
形態では考えられない人権侵害を防止するた
めには、
転籍制限をなくすことが不可欠。
○ 国内の人材確保が受入れ目的となっていると
すると、
技能修得等は就労の結果であってそれ自体が
目的ではないことから、転籍を認めない理由
はない。
○ 技能実習生であるから転籍を認めないという
制度目的にとらわれた在り方は、実態として
も正当化されない。
転籍できないことが雇用主側に都合良く利用
されているのではないか。
また、人権の遵守が国際的にも非常に厳しく
要求されていることから、
国際的な批判に耐えられる制度設計をするべ
き。
○ 技能実習制度の枠組みを残した上で、特定技
能制度との連結を強化し、人権尊重の観点か
ら転籍を認める形としてはどうか。
○ より良い労働条件を求めて転職していくのは、
労働者の基本的な権利。
良い労働条件のために転職していくことはやむ
を得ず、それにより、むしろ、その業界自体が
良くなっていくのではないか。
○ 技能実習生の失踪率が 1.8%、転職が認めら
れている特定技能外国人では行方不明者の割合
が 0.14%であり、
10 倍以上の差があることや等からみて、技能
実習生に例外的に転籍を認める制度は十分に
機能していないのではないか。
○ 日本人であれ外国人であれ、1年や2年と
いう短期間で会社から離れてしまうことは好ま
しくないが、
技能実習制度の転籍不可という仕組みは、国内
の労働法制や国際的な批判との見合いの中で耐
えられないであろう。
ただし、具体的にどの点が国際的な批判に耐え
られないのかを、見定めていく必要があり、
その結果、ある程度転籍を認めざるを得ない制
度になるのであれば、企業側も受け入れざるを
得ないのではないか。
○ 国際機関や諸外国がいろいろな分野で人権の
観点から評価するのは制度が全てであるため、
何年間も転籍が認められないという制度そのも
のが問題視される。
また、転籍した場合に本人が在留資格を失って
不法滞在となれば、社会にとっても非常に不安
定な存在となるという問題もある。
○ 労働力としての位置付けを正面から認めるの
であれば、転職制限は再考が必要。
その際には、民法 628 条など有期雇用に関する
契約上の取扱いを踏まえて転職制限の意味を議
論することが必要。
○ 現行の労働法制上、有期労働契約が3年以内で、
1年間はやむを得ない事由があるときに限り契
約が終了できることとなっており、
期間の定めを設けたとしても、1年たてば労働
者は自由に退職できるということになっている。
この制約以上に、入管法上で、外国人材の転籍
を制限する必要はないのではないか。
○ 転籍の仕組みとして、雇用主の同意や協議が必
要とすると機能しなくなるので、
基本的にはそれぞれの契約当事者の自由意思で
できる仕組みとするべき。
○ 転籍は認める制度とする場合、初期費用も含め、
それまで掛かったコストについて、補てん等の
ルールをどう定めていくか、議論を深めたい。
○ 育てた人材が地方から大都市圏に大量に移動し
てしまうことを懸念する意見もあるが、
転職が認められている特定技能外国人が大都市
圏に大量に流入しているデータは今のところ見
当たらない。
むしろ、受け入れた企業が、給与水準を含め、
キャリアアップをどのように示すのかが非常に
重要な要素であり、
自治体が外国人と共生するための環境整備をど
れだけ行って、地域の魅力を引き出しているか
も関係している。
このため、在留資格と結びつけて法的に転籍を
拘束する必要性はない。
○ 技能修得等という観点からみて、広い意味での
日本社会の就業規律や技術の維持、改善への意
識などは、
一つの職場にいなければ身に付かないというも
のではない。
その業種特有の技能についても、現行の技能実
習制度のように3年間同じ職場でなければ身に
付けられないものが今の技能実習制度の職種に
あるとは考えられない。
(一定の制約の必要性)
○ 技能修得の観点から考えれば、人権の尊重を
最大限に担保した上で、技能実習制度を、外国
人材にとっても事業者にとっても最初のエント
リーステップと位置付け、一定期間、
例えば、技能実習1号及び2号の3年程度は同
一事業所で一つの技術をしっかり身に付け、
なおかつ、日本で生活する上で必要な日本語も
身に付けてもらう期間として、
よほどのトラブルがない限り、原則転籍不可と
いう制度設計で見直し、存続することが重要で
はないか。
○ 日本人を雇用した場合と同様に、技能修得に
は一定の期間が必要であること、
受入れ費用負担、事業計画等の観点からもほと
んどの事業所が技能実習生の一定期間の在籍を
望んでいる。
また、人材確保の観点からも、技能実習生には、
当該事業所での一定の就労期間を確保すること
が必要ではないか。
○ 技能実習制度に一定の技能修得を図るための
人材育成機能を持たせるべきであり、完全に
転籍を自由に認めるのは難しい。
技能実習生ごとに技能実習計画が作成、認定
されている仕組みの中で自由に転籍を認めれ
ば、人材育成機能を軽減させてしまう。
○ 技能実習生の人権保護を一層強化するため、
一定の要件の下で、これまで以上に柔軟に転
籍を認めてもよい。
一方で、技能実習生のキャリア形成を阻害す
るような転籍は認めるべきではない。
短期間で転籍を繰り返すのはキャリア形成に
支障があるので、
例えば1年に1度など回数制限を設けること
も必要。
転籍制限をなくすと、真面目に技能移転に取
り組んでいる実習実施者が結果的に受入れを
取りやめざるを得なくなることを懸念してい
る。
良質な実習実施者が退出し、悪質な実習実施
者が残るような事態になりかねない。
これを防ぐためにも、実習実施者にとっても
技能実習生に技能移転を行うインセンティブ
が保たれる制度設計が必要。
○ 人権の視点から考えたとき、完全に移動で
きないのは仕組みとして問題があるが、
スキル形成という視点では、一つの職場で一
定期間習熟を図るという視点もあるため、
人権の課題とバランスを取った検討が必要。
劣悪な労働環境においては転籍可能という
実習先変更支援の枠組みを緩やかにして、
例えば労働者自身がスキルアップを目指す
場合にも広げることも考えられる。
○ 技能を修得する観点からは、一つの実習実
施機関で3年から5年間実習することが望
ましいが、
人権の尊重を前提として、同じ職種内での
転籍は認めてはどうか。
○ 転職と転籍は分けて考えていい。
農業をやるために来たのであれば、農業を
やってほしい。
例えば、在留資格が「技能」で調理人の方
がIT企業に就職を希望する場合には、
在留資格の変更が必要であり、「技能」の
ままでは分野を超えた転職はできない。
分野を超えた転職をするためには、1回出
直すというのは十分合理的なのではないか。
○ OECD、ILOのヒアリングにおいて
も転籍制限イコール即人権侵害ではないと
明確に言っている。
転籍制限の在り方は、自国民の働く権利と
非常に密接に関わっている。
転籍を無制限に認めると、それは別種の権
利侵害を生む。
○ 職域を超えた転籍は、給料が高い職種に
人材が流出し、
人手不足の産業がより一層人手不足に陥る
こととなって産業間格差が生じる懸念があ
る。
○ 転籍については、地方への影響も十分に
考慮して議論すべき。
仮に無条件に転籍の自由が認められること
になれば、
地方の実習実施者が外国人材の入国の足掛
かりとなってしまう。
技能実習生等の意思も尊重しつつ、原則1
回に限り、同一職種の転籍を認めることが
考えられる。
また、転籍前後での企業間の費用負担の在
り方についても検討が必要。
○ 職種や業種によっては、技能を修得するの
に半年か1年あれば十分であるが、
3年間転籍ができないとなると、1年程度の
技能修得後も2年は最低賃金で働く、
かつ、転籍ができないことで労働移動を防
いでいるので人権侵害といわれる危険性が
ある。
職種や業種を踏まえ、訓練に必要な期間を
一律としないような議論をする必要がある。
○ 受入れに掛かるイニシャルコストが受け
入れる企業側にとって負担であり、
仮に転籍が自由になった場合に、イニシャ
ルコストの問題が現状のままでは企業側は
受け入れ難い。
この問題をどのように解消できるか、制度
の中で、あるいは制度とは別に何かしらの
支援の仕組みで負担感を抑えられるのかを
考えていく必要がある。
○ 実習実施者による一方的な費用負担に対
する不公平感が惹起される点や、
転籍によって生じた欠員に対する補充の問
題、転籍を希望する技能実習生の新たな受
入れ先が見つからないといったトラブルや
事態を未然に防ぐためのルール作りが必要。
○ 自由意思で転籍を認める場合、入国の際の
旅費等の費用負担について、
次に受け入れた事業者が支払うこと等も検
討が必要。
また、次の実習実施者が決まるまでの間、
外国人技能実習機構が行っているシェル
ターの確保、
職業紹介事業者や仲介ブローカー等がビジ
ネスとして絡んでいないかの監視も必要。
○ 1年ごとの技能実習生の意向確認や、現行
制度の実習継続困難時における実習先変更
支援の改編、拡充を行い、
外国人技能実習機構が転籍先をあっせんす
る等、積極的に関与する仕組みを構築する
べき。
また、営利目的の仲介業者が参入できない
仕組みも必要。
○ 一、二年の離職を回避するため、企業の努
力や自治体の支援、国としての支援制度に
ついては別途考えていく必要がある。
(転籍の制度設計に当たり検討すべき事項)
○ 各国の制度を比較すると、転職可とされつ
つ、事実上頻繁に転職しにくいものが多い。
外形的な役割だけでなく、実質的な部分を
踏まえる必要がある。
日本でも現行制度で転籍が認められている
部分で、転籍がどの程度行われているのか、
実態を踏まえ、事実認定を丁寧にしていく
ことが重要。
○ スキルアップのためには、余り頻繁な転籍
は望ましくなく、
訓練する側も途中で変わるリスクがある中
では訓練に及び腰になってしまう。
一方で、転籍制限を課すことは個人に機会
費用の負担をさせていることにもなってし
まう。
これらを解決するには、中長期に活躍でき
るような訓練投資をした企業が得する仕組
みや、
外国人本人も優良な成績を上げたら優遇さ
れるようなインセンティブを与えることが
重要。
○ 労働条件がいいところに移るのはある種の
労働市場のメカニズムであるので、
働き続けることにつき様々なインセンティ
ブを企業側で作っていく工夫が必要。
○ 失踪の防止や救済の観点から、入管法上の
在留許可に関する条件についてもきちんと
周知することや、
契約や実習計画について本人に示してサイ
ンをもらうなどの透明化を図ることが必要
である。
○ 転籍の条件が厳しすぎたり、監理団体が
転籍に対応できているかという問題がある
ので、
転籍を速やかに行えるようにNPO法人な
どの支援機関を頼るなどの様々な方策を検
討する必要がある。
○ 転籍を可能な制度としたとしても、そも
そもマッチングがうまくいっているか、
住居が見つけられるのか、転籍先が見つけ
られず在留資格を喪失したら日本にいられ
なくなるなど、
他の在留資格にも共通する課題もあり、幅
広に検討する必要がある。
○ 在留資格の審査の場面では、やむを得ない
事由があった場合のみ転籍を認めているこ
とにより、
立証責任が技能実習生本人に転嫁されてしま
い、
実習先の法令違反が立証できなければ救えな
い状況になってしまっている。
実態としてきちんと救えるような制度にして
いく必要がある。
○ 転籍や転職については、現場で技能実習生
が置かれている実態を踏まえて、
国際基準からは何が適切か不適切かを明ら
かにした上で、
人権配慮の観点から、絶対的な基準に照ら
して判断すべき。
また、技能実習生が声を上げられる状況に
あるかといった観点から、相談制度の運用
実態を検証すべき。
○ 人権は普遍的概念と言われるが、どこかの
国際機関が確定的に決定できるものではな
い。
国際的な批判を十分に認識する必要はある
が、
日本における人権状況がどうあるべきかは、
日本人自身が主体的に決めることである。
国際機関が各国の制度や取組を評価するに
当たっては、
国家主権を尊重する観点から、その評価内
容が慎重な表現になるのは当然のことであ
り、
それをもって日本国内の人権状況が全て問
題なしとなるわけではない。
今後の政策決定において在留外国人の人権
をどう確保するかは、
日本の労働法制の適用も含めて我が国が主
体的に決めるべき。
==================
転籍についてさまざまな意見が出されて
いますが、
一定の転籍を認めようとする意見の根底
には、
技術移転のための技能の習得には一定の
期間が必要、
という考え方があるようです。
ただ、私が気になるのは、
「そもそも本制度で技術移転と言えるほど
の活動をしているのか。」
ということ。
日本じゃないと習得できないような技術を
学んでいるのか、
いや、学ぶような機会を受け入れ企業は
提供しているのか、
ということです。
現場でしていることのほとんどは、
単純労働です。
まずは、充分なファクト(事実)を集める、
委員のメンバーや国の責任者がが1年ぐら
いかけて現場を(できれば抜き打ちで)
見て回る、
そうして、肌感覚で事実を知るということ
が、
実体と乖離しない制度設計には極めて重要
だと私は思います。
そうしないと、どうしても思い込みが走っ
てしまう可能性があるからです。