「技能実習制度のあり方」(たたき台)を読む(その1)。
下のニュースフラッシュでも取り上げ
ましたが、
現行の技能実習制度が廃止されること
が決まりました。
今後は、これに変わる新たな制度の
検討が進められることになります。
これまで技能実習制度は、
▼賃金未払い
▼サービス残業の強制
▼実習生への暴力
▼転籍不可
▼実習生の失踪
▼受け入れ企業の7割が法令違反
などなど、数え上げればきりがない
ほどさまざまな問題が指摘され、
国内外から問題視されてきました。
かつて国連でも取り上げられたことが
ありました。
私自身も、随分前から本メルマガを
通じて技能実習制度の廃止を訴えて
きましたので、
今回の決定には、基本的に賛成です。
とはいえ、内容を精査しなければ
より深い理解も得られませんし、
また、現時点での問題点も見えて
来ません。
そこで、今回から数回にわたり、
法務省のサイト
技能実習制度及び特定技能制度の在り方
に関する有識者会議(第5回)
https://bit.ly/43rLO7M
に出された資料を、数回にわたり
みていきたいと思います。
第1回目は、まずは概要を掴む意味で
こちらの資料を見ていきましょう。
中間報告書たたき台(概要)
https://bit.ly/3ocNcej
以下。
===================
●検討の大きな方向性
技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成
を目的とする新たな制度の創設を検討すべき
である。
===================
これまでの人材育成に加えて、人材確保
も目的に入れる形となっています。
私としては、技能実習制度を完全に廃止し、
特定技能に一本化して、制度の充実を図る
方向に行くのかと考えていましたが、
やはり、そこは従来の既得権益等との絡み
で難しいのかもしれません。
と同時に、人材育成の要素を残すので
あれば、
これまでの制度の悪癖をどう払しょくする
のかが、大きな課題になるかと思います。
以下、「たたき台(概要)」では、6つの
論点について、それぞれ現状と新たな制度
について述べています。
それぞれの論点に番号を振って下記に
示します。
=====================
【論点1】
制度目的と実態を踏まえた制度の在り方
(技能実習)
【現状】
人材育成を通じた国際貢献
↓
【新たな制度】
人材育成機能は維持するが、人材確保も制度
目的に加え、実態に即した制度とする
---------------
【論点2】
外国人が成長しつつ、中長期に活躍
できる制度(キャリアパス)の構築
【現状】
職種が特定技能の分野と不一致
↓
【新たな制度】
●職種は特定技能の分野にそろえる(主た
る技能の育成・評価を行う。技能評価の
在り方は引き続き議論)
●外国人がキャリアアップしつつ我が国で
修得した技能等を更にいかすことができ
る制度とする
---------------
【論点3】
受入れ見込数の設定等の在り方
【現状】
受入れ見込数の設定のプロセスが不透明
↓
【新たな制度】
人手不足状況の確認や受入れ見込数等の
設定は、様々な関係者の意見やエビデン
スを踏まえつつ判断がされる仕組みとす
るなどの措置を講ずることでプロセスの
透明化を図る
---------------
【論点4】
転籍の在り方(技能実習)
【現状】
原則不可
↓
【新たな制度】
人材育成に由来する転籍制限は、限定的
に残しつつも、制度目的に人材確保を位
置づけることから、制度趣旨と外国人の
保護の観点から、従来より緩和する
(転籍制限の在り方は引き続き議論)
---------------
【論点5】
管理監督や支援体制の在り方
【現状】
●監理団体、登録支援機関、技能実習
機構の指導監督や支援の体制面で不
十分な面がある
●悪質な送出機関が存在
↓
【新たな制度】
●監理団体や登録支援機関は存続した
上で要件を厳格化するなどして監理
・支援能力の向上を図る(機能や要
件は引き続き議論)
●外国人技能実習機構は存続した上で
体制を整備して管理・支援能力の向
上を図る
●悪質な送出機関の排除等に向けた実
効的な二国間取決めなどの取組を強
化する
---------------
【論点6】
外国人の日本語能力向上に向けた取組
【現状】
本人の能力や教育水準の定めなし
↓
【新たな制度】
一定水準の日本語能力を確保できるよう
就労開始前の日本語能力の担保方策及び
来日後において日本語能力が段階的に向
上する仕組みを設ける
==================
論点6に日本語能力向上に向けた取組みを
謳っているのは評価できますが、
実は、本会議のメンバーに日本語教育の
専門家は一人も入っていません。
どういう理由でそうなったのかわかり
ませんが、
これでは、おそらく日本語教育について
の実効性のある議論は難しく、
日本語教育に対するコストがかなり甘く
見積もられるのではないかと危惧して
います。
というのも、1991年の入管法改正や
EPA看護師・介護福祉士候補生の受け入れ
の前例があるからです。
前者では、
「日系人だから日本語は分かるだろう。」
という甘い見積もりで受け入れたところ、
日系ブラジル人・ペルー人の多くが
日本語ができず、
慌てて自治体がその対策に乗り出した
という経緯があります。
また、後者では
「取りあえず来日前に日能試N4ぐらい
あれば、6か月の訪日後研修とOJTで
国家資格ぐらい取れるだろう。」
として、フィリピンとインドネシアから
受け入れたわけですが、
実際は、日本語の習得と国家資格対策
に膨大な時間がかかり、
多くの候補生を受け入れたものの、
受け入れ当初はなかなか合格できず、
結果、介護士試験に英語表記するとか、
漢字に振り仮名を振るなど、
さまざま措置が取られました。
もしかしたら今回も、
「会議で決まったから、この期間と
予算でやって!」
のような言い方で、無茶振りされる
のではないかと危惧しています。
今後の動向に注視していきたいと
思います。