「~てある」の自然で効果的な導入(その2)
前回、
江田すみれ・堀恵子『習ったはずなのに
使えない文法』くろしお出版
https://amzn.to/3kd8Z1E
の中の、
太田陽子「『文脈化』という視点
-『~てある』の練習の検討を例に-」
の中で、「~てある」の効果的かつ自然な
導入法を紹介しました。
今回は、その続き。
まずは、前回ご紹介した「~てある」の
導入事例を1つ再掲します。
社員と掃除のおばちゃんが会話している
イラストを見ながら。
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A:寒いと思ったら、窓が開いていますよ。
B:開けてあるんですよ。
A:どうして。
B:さっきまでたばこのにおいがしていた
から。(p.35)
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とても自然で、なおかつ「~てある」が
効果的に使われています。
上記の導入例が効果的なのは、たまたま
そうなったのではなく、
【効果的な導入を組み立てるための
セオリー】
に沿って作ったから。
それはすなわち、
「『文脈化』という視点を持つ」
ということ。
文脈化は、本書によれば、もともと
川口義一(2001)「日本語教育のための「文法」
-表現者のための文法記述」『日本語学』
20(3),pp.16-25
から出たもので、川口(2001)は文脈化を
以下のように定義しています。
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「文脈化」とは、特定の語彙・文法項目・文型
などを含む文や文章が、「どういう文脈で」す
なわち「だれからだれにむけて」「どういう
(コミュニケーション上の)目的をもって」発
信されるのかを記述することである。
(川口(2001)p.18)
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初級文型の導入というと、ややもすると、
文型を使うための例文と、そのための場面
設定になりがちですが、
それでは、「だれからだれにむけて」「どう
いう(コミュニケーション上の)目的をもっ
て」発信されたものかが疎かになり、
いかにも不自然な、説得力のないものになっ
てしまいかねません。
それでは、せっかく勉強しても、実生活で
効果的に使いこなすことはできないでしょう。
結果、「習ったはずなのに使えない文法」と
なってしまうわけですね。
近年、「行動中心アプローチ」という言葉を
よく聞くようになりましたが、
行動中心アプローチとはいっても、決して
文法を軽視していいというわけではなく、
コミュニケーションのゴールであるタスク
の達成に向けて、
文法も語彙も発音も、その他もろもろ、
そこにベクトル合わせていきましょう、
という考えであると、私は考えています。
その一環として、この文脈化はタスク達成に
沿った文法項目の提示方法と言えるのでは
ないでしょうか。
筆者である太田氏は、文脈化された練習を
成立させる条件として、以下の5つをあげて
います。
1.その文型の使用(=選択)にはどのよう
な要素が関係するのかが意識されている。
2.その文型で「何をするのか」=コミュニ
ケーション上のゴールが提示されている。
3.文脈条件に合う具体的な場面設定になっ
ており、その条件での類例を複数生み出す
ことができる。
4.他の表現の可能性(広い意味での類義表
現)を考慮し、それら隣接表現との関係が
見える。
5.共起しやすい表現とともに提示されてい
る。
(p.41)
普段の授業や、お手元のテキストを、以上の
ような「文脈化」という視点で見直してみて
はいかがでしょうか。