公認日本語教師制度の論点-日本語教育機関の類型化(2)
去る2月26日、
「第3回日本語教師の資格に関する調査研究
協力者会議」
が開催されました。
で、今回の会議の委員で、今月27日に実施する
篠研企画セミナーにご登壇いただく工藤尚美様
が、会議の中で重要なご指摘をなさいました。
それは、
「就労を類型化する際、法務省日本語教育機関の
告示基準の審査項目は、就労者に対する日本語
教育を担う教育機関の審査項目にはそぐわない
のではないか」
というものです。
工藤様の論拠は以下の通りです。
(工藤様、ありがとうございました。)
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そもそも、前述の議論の元は、
「類型化の基準を一から作るのが理想ではあるものの、
まずは既に設置されている”法務省日本語教
育機関の告示基準”の審査項目に合うか合わない
かについて」意見を求めるというものでした。
ご存じの通り、法務省告示基準は、告示校が留学生
を受け入れる際、
「留学」という在留資格を付与するために、定員や
時間数、校舎・教室の面積、施設設備等、
「適正な体制で運営されている学校か否か」
を審査するものです。
それについては、基準にそぐわないものが多い旨
発言するとともに、
告示基準以外で類型化の基準(あるいは公認日本語
教師の資格基準)を設けた場合、
ということで、就労者向け教育を行う日本語教師に
必要な要素について、続けて私見を述べました。
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今回は、これについて私篠崎の考えを述べたいと
思います。
この工藤様の主張は、まったくもってその通り
で、
大学進学を目的とした留学生を主な対象とする
日本語学校向けの法務省告示基準を、
多少手直しするとはいえ、就労者対象の教育
機関にあてがうのは、
いくらスケジュールが切迫しているとはいえ、
それは明らかに方向性が違います。
そもそも「留学」と「就労」は日本語教育の
状況や学習内容が異なるから、
別々のカテゴリーとして設けられているわけ
ですから。
とはいえ、スケジュールが切迫しているのは
確かで、
それだけに早急な青写真を描く必要があると
言えます。
そこで今回は、「就労」というカテゴリを
設ける意義を3つお話しします。
これは、あくまでも私個人の考えですので、
絶対というわけではありませんので予めご
了承ください。
1つ目は、就労者向け日本語教育を学ぶきっ
かけが増えることが期待できるから。
例えば、同じ企業からの委託での日本語レッ
スンであっても、
その費用がどの経費(勘定科目)から出され
たものかによって、レッスンのスタンスが大
きく変わります。
もし、レッスン料が福利厚生費から支払われ
るのであれば、
日本語レッスンは社員への福利厚生の一環で
行われるので、社員のニーズを最優先にした
レッスンの内容にする必要があります。
一方、レッスン料が研修費から支払われるの
であれば、
日本語レッスンは社員教育の一環で行われる
ことになるので、企業側のニーズを最優先し
て行わなければなりません。
このことが分からず、誤った対応をしてしま
うと、日本語教師は両者の板挟みにあうばか
りか、
信用を大きく失墜させてしまうことになるわ
けですね。
こうしたことは、業種業態を問わず概ね共通
して言えること。
なので、こうした最大公約数的な部分をでき
るだけ抽出し、最低限の了解事項として標準
化することで、
「就労」というカテゴリーができることに
よって、
そうした知識を学ぶきっかけが増えるのでは
ないかと思います。
2つ目は、「公認日本語教師」という資格は、
「就労」の分野においてこそその効力を発揮
すると考えられるから。
どういうことかというと、「留学」を担う
法務省告示日本語教育機関も、
「生活」を担う地方自治体の日本語教室も、
もとより国が直接指導なり関与なりができる
体制ができています。
ですので、ぶっちゃけ言うと、公認日本語教
師の制度ができなかったとしても、
国が「有資格の日本語教師を配置しろ!」と
いえば、日本語教育機関も地方自治体もそれ
に従わざるを得ないですし、
もしそこで教師の質を問うのであれば、現行
の420時間カリキュラムや日本語教育能力検定
試験の内容を変更すれば済むだけの話なのです。
ところが、「就労」はそうはいかない。
「就労」の分野は、基本的に企業対日本語教
育機関、あるいは、企業対教師個人の契約に
基づいて教育サービスが行われます。
そして、そこで求められるのは「交渉力」。
その際、日本語教育側にとっては、国のお墨付
きである「公認日本語教師」という切り札を
持っているというのは、
交渉を進めるうえで、大きな力になるのです。
これまで、いや今も、日本語教育界はその外の
人から、
「日本人なら、日本語ぐらい誰でも教えられ
るでしょ。」
と言われ続けてきました。
どうしてかというと、今まで国公認の資格で
はなかったからです。
それが、公認日本語教師という、国の後ろ盾
がある専門家となれば、
先のような「日本人なら誰でも」という論理
を一気に吹き飛ばすことができます。
これはとても大きいんですね。
そして、3つ目は、ビジネス日本語教育の
発展に寄与するから。
今まで、日本語教師養成からビジネス日本語
への仕組み化された橋渡しはほとんどありま
せんでした。
だから、ビジネス日本語を専門とする日本語
教師の養成が難しかったわけです。
結果、多くのビジネス日本語教育の先生方は、
基本的には場数を踏んで試行錯誤を繰り返し
ながら、そのノウハウを身につけるしかな
かったわけですね。
ですが、今回「就労」というカテゴリーが
でき、その周辺の整備も進めば、
教員養成からビジネス日本語教育へのルート
ができ、
また、ビジネス日本語教育を学ぶ機会も増え、
もってこの分野の発展につながると考えられ
るわけです。
なによりビジネスパーソンは、基本的に私
たち日本語教師にとってかなりの優良顧客。
留学生のように学生管理の必要はありません
し、
よくある日本語教室のように、教室に行った
ら誰も来ず、レッスン代が入らなかったと
いうこともありません。
バックには大資本家である企業がついている
わけですから、基本的に不払いは起こりませ
ん。
そんな顧客を取り込まない手はないと思う
のは、私だけでしょうか。
こんなことも、今月27日の工藤先生セミナー
で伺えればいいなぁと思う次第。