ｵﾝﾃﾞﾏﾝﾄﾞ授業が自律的学習に繋がらない理由（その２）

一見、学習者の自律的学習を促進する
かのように見えるオンデマンド授業。

なのに、学習者によっては、かえって
学習効果も学習意欲も下げ、学習満足度も
下げてしまう。

こう言うと、

「学習効果が上がらないのは理解できるが、
学習意欲や学習満足度まで下がる
のは、本人の責任じゃないか。」

と反論したくなる方もいらっしゃるかと
思います。

確かに。

ですが、現実としてオンデマンド授業を
やってうまくいかなかったという事例が
たくさんあるのです。

その象徴的なのがMOOC。

MOOCとは、無料の大規模オンライン教育
のことで、

世界各国の有名大学の授業が受けられる
画期的なシステムです。

例えば、ノーベル賞を受賞した先生の
講義を、

無料で、しかも自宅から受けられると
したら、こんな魅力的なことはないです
よね。

ところが、このMOOC、修了率がむちゃ
くちゃ低い。

平均で５％から10％。

ハーバード大学とマサチューセッツ工科
大学が共同で設立したedXの修了率は、
たった5.5％なのです。

対面式授業ではありえない数字
ですよね。

MOOCの修了率はなぜ低い？
平均や改善策は？
https://bit.ly/3p1j8xz

受講開始当初は、「よしやるぞ！」
と思って始めたでしょうから、

オンデマンド授業によって学習意欲が
減退したと考えられます。

それに、そもそも最後まで続かない
わけですから学習効果など出ようはず
がありませんし、

途中でやめて「受けてよかった！」
なんて思うはずもありませんから、
学習満足度も推して知るべしです。

では、なぜオンデマンド授業だと
こんな惨憺たる結果になるので
しょうか。

私は、その原因として大学教員や
研究者が陥りがちな、２つの大きな
誤解が関係していると考えています。

その２つとは、

１．無料にすれば、みんな喜んで
最後まで勉強するはずだ。

２．勉強は人生にプラスになるから、
学習機会が増えればみんな喜んで
勉強するはずだ。

この考え方にしっかりフックする人
というのは、

勉強によって人生の成功を手にした
人、

そして、そもそも勉強が好きな人です。

典型的なのが教員です。

自戒を込めて言いますが、勉強好きが
その感覚で教育の制度設計すると、
だいたい失敗します。

そもそも、無料サービスに集まってくる
人というのは、勉強云々ではなく、

単に無料だからという理由で集まって
くる人です。

つまり、サービスの価値より価格で
判断する人です。

こういう人は、サービスの価値に
重きを置いていないし、
（ぶっちゃけ分からないし）

途中でやめても経済的な損失がない
ので、簡単にやめてしまうのです。

もちろん、中には、

「貧乏な私でも、教育の機会が得ら
れて最高！」

と思って、喜んで受講する方もいる
でしょう。

ですが、全体からみればごくごく少数
です。

でなければ、5.5％などという数字が
でるはずありません。

また、多くの人は学習機会がないから
学習しないというわけではありません。

学習する気がないから学習しないし、
続かないのです。

悲しいかな人間というのは、

「若いときにもっと勉強して
おけばよかった。」

と、一生後悔しながら死んでいく
生き物なのです。
（今が人生で一番若いのにです。）

そのことは、実は学習者自身が
一番理解していて、

だからこそ、

「勉強しないと、とわかっているん
だけど、

自分の力だけではどうしても続か
ない。

ついては、授業料を払うのでこんな
私となんとかしてください。」

といって、私たち教師のもとにやって
来るわけです。

そこを、私たち教師は理解しないと
いけない。

これは、例えば

▼タバコが体に悪いとわかっていながら
禁煙できない喫煙者

▼ダイエットが必要とわかっていながら、
ついつい甘いものに手が行ってしまう
肥満の人

▼英会話を勉強しようとするも、１週間
と続かない、英語教材収集家

と、構造的には全く同じなんですね。

そんな学習者に、学習素材だけ与えて

「あとは自律的に学習しなさい。」

といったところで、続くはずがありま
せん。

オンデマンド授業が自律的学習に繋がら
ない理由はここにあるわけです。

ここを、私たち教師は理解しないと
いけない。

では、そうした学習者にはどのような
教育を提供すれば、自律的な学習者に
育っていくのか。

続きは、次回に。