初級の文型導入授業そのものが、この世からなくなる日(その2)
前回、
初級の総合テキスト『げんき』の文法解説動画
配信のようなサービスが今後広がれば、
GRAMMAR VIDEO FOR GENKI
http://grammarvideoforgenki.com/
いずれ初級の文型導入の授業が丸ごといらなく
なる日が来る。
そうすると、私たち日本語教師は、これまでとは
指導方法も学習観・教育観も根本から見直す必要
がある。
そんなお話をいたしました。
では、指導方法や学習観・教育観は、どう見直し
ていけばいいのでしょうか。
もちろん、一概に言えるものではありませんので
私の考えも、数あるものの一例と捉えていただき
たいのですが、
おそらくは、座学による知識注入的な授業は、
少なくとも初級においては、ほとんど価値を
持たなくなるだろうと思います。
なぜなら、初級レベルの日本語文法の解説情報は
すでにインターネット上に溢れんばかりにある
からです。
しかも、各国語で。
現在の多くの教育機関で行われている、直接法に
よる初級文型導入の授業ノウハウは、
まだ、インターネットが普及する前に考案された
もので、
学習者の母語による日本語文法の解説情報が
不十分という前提条件の中で、
多国籍のクラスを運営しなければならないという
現場の状況があったから価値があったのです。
しかし、今はその前提が崩れているのです。
絵カードや工夫を凝らした例文を使って、
熱心に日本語で授業をしている教師を横目で
見ながら、
学習者は、手元のスマホで導入文型を母語で
解説したサイトに目をやって理解する。
これが現実です。
それが癪だからといって、
「授業中のスマホ利用禁止」
としたところで、学習者の感覚からすれば、
「先生、そもそも日本語で回りくどい説明
されるより、母語の説明を読んだ方が
一発でわかるんッスよ。
正直、先生のやり方、イケてないんッスよ。」
と思われるのが関の山です。
ただ、そんな学習者であっても、知識を得たから
といって、たちまち自在にアウトプットできるわけ
ではない。
話せないし、書けないし、読めないし、
聞いてもわからない。
だから、授業では、話したり、書いたり、読んだり、
聞いたりといった活動をふんだんに行う。
特に、初級では、教師-学習者や学習者同士の
インターアクション、
さらには、教室を飛び出して生の日本人と交流する。
そうした活動を通じて、学習者は
「知識があっても、使いこなせない自分」
に否応なく気づかされ、
様々なアクティビティーや、見ず知らずの日本人と
コミュニケーションをするといった体験学習を通じて、
驚き、発見、喜び、納得、ワクワク、ドキドキ
を感じながら、
さらに、日本語を流暢にアウトプットできるように
なっていくことで、
▼自己成長感
▼自己効力感
▼自己肯定感
▼自己実現感
を実感する。
ここに、わざわざ生身の教師の下で勉強することの
意味や付加価値が生まれるわけです。
教師は、学習者の前に立つというよりは、
むしろ、彼らの後ろに立ち、
彼らがどんどんコミュニケーションするよう
背中をぐいぐい押してやる。
今後、教師にはそういう立ち位置が求められる
のです。
そして、そういう新たな学びのスタイルで
日本語教師に求められるのは、
日本語文法に関する学者レベルの膨大かつ
詳細な知識ではなく、
学習者とリアルで楽しい会話を展開できる
【コミュニケーション力】
です。
とはいえ、いきなりそんな発想の転換は難しい。
ただでさえ、初級の文型導入の授業準備に四苦八苦
しているのに、
それに加えてコミュニカティブ活動を充実させろと
言われても、物理的に不可能。
だから、私はその橋渡し的な学びの場として
◆篠研の日本語の教え方ワークショップ
「初級文型導入の授業準備を短縮する方法
-まずは1時間以内、そして30分、最速10分」
https://www.kanjifumi.jp/bunkeitansyuku/
東京:8月11日(日・祝)
を企画しているわけです。
しかし、その先にある、これからの教師に求められる
【コミュニケーション能力】
を身につけなければ、この話は完結しません。
しかも、コミュニカティブ活動を苦手としている
日本語教師が思いのほか多いこと、多いこと。
では、教師に求められるコミュニケーション能力とは
どのようなものなのでしょうか。
考えてみてくださいね(^_^)
続きは次回に。