「みんなの日本語」から「あなたの日本語」へ(その3)。
前々回からのシリーズ。
「みんなの日本語」から「あなたの日本語」
にシフトチェンジしている現在において、
学習者を見るや、有無を言わさずプレイス
メントテストを行い、
初級、中級、上級に仕分け、
初級だったら『みん日』か『でき日』
中級だったら『中級から学ぶ』か何か
上級だったら『上級で学ぶ』か何か
でしか授業できません!で思考がロック
してしまう。
そんな【閉じた系日本語教師】では、
これからの世の中、到底生き残れません。
さまざまなタイプの学習者を柔軟に受け入れ、
さまざまな指導法を貪欲に取り込んで、
試行錯誤を重ねながら成長していく
【開いた系日本語教師】
であることが、変化の激しい今の時代では
必要なことなのです。
そして、これからの日本語教育で重要なことは、
「正確なニーズ/レディネスの把握」
です。
確かに、これまでも養成講座で
「ニーズ調査/レディネス調査」
「ニーズ分析/レディネス分析」
の重要性が説かれてきましたが、
最大の就職先である日本語学校では、
ほぼほぼ大学・大学院・専門学校進学
を前提に留学生が入学していましたので、
ニーズ調査の必要性はさほどなかったん
ですね。
ところが、今は名実ともに学習者の多様化が、
急激に進んでいるのです。
しかしながら、彼らの多様なニーズや
レディネスを理解するためには、
実はもう1つ知るべき重要なことが
あります。
これが分からなければ、教師は学習者を
大きく誤解してしまう可能性があるのです。
それは、いったい何でしょうか。
ニーズやレディネスよりも、実はもっと
重要なこと。
それは、
【学習者の社会的背景】
です。
ここをしっかり理解しなければ、たとえ
ニーズ調査やレディネス調査をしても、
そもそも、なぜそのようなニーズがある
のかが理解できないのです。
例えば、1年ほど前ごろまで日本語学校の
学級崩壊がメディアを賑わせていた時期が
ありました。
▼授業中、学習者は全く授業に参加しない。
▼授業中寝てばかり。
▼欠席が目立つ。
▼将来の自分の進路にまったく頓着しない。
▼教師に対して反抗的な態度をとる。
挙句の果てには
▼授業中、教室の後ろで博打にふける。
(これには私も驚きました。)
こんな状況で、中には日本語学校を離れた
教師も少なからずいたでしょう。
確かに、学習者にも問題があります。
しかしながら、一方でそうした状況を必然的に
生むような社会的状況があり、
彼らは、そうした文脈の犠牲者でもあるという
ことを、私たち教師は理解する必要があります。
つまり、
▼来日前、国では「働きながら勉強できる。家族に
仕送りもできる。借金もすぐに返せる。」という
嘘の説明を受けて来日したこと。
▼従って、勉学より労働目的で来日したこと。
▼日本では単純労働は認められず(制度改正前)、
留学生という立場でしか来日が許されないこと。
▼そのため、立場上想像以上に「勉学」を強要
されること。
▼日本での日常生活の中でいわれのない差別を
受けることがあること。
▼彼らを食い物にするブローカーや団体が存在
すること。
などです。
こうした社会的背景が分からなければ、
「あの子は、全然勉強しない。」
で思考がストップしてしまいますし、
アルバイトで深夜まで働いて、授業中
居眠りばかりしている留学生を見て、
「いったい何のために日本語学校に来たんだ。」
と思ってしまうわけです。
誤解のないように、あえて繰り返しますが、
学習者側にも大いに問題はあります。
ただ、私がここで申し上げたいのは、
学習者を正しく理解するためには、
【学習者の社会的背景】
を知るということが、非常に重要だということ
なのです。
【学習者の社会的背景を知る。】
↓
【学習者のニーズ/レディネスを知る。】
↓
【然るべき教育サービスを提供する。】
これが正しいステップです。
このステップを確実に踏み、各ステップで
正しい情報を得、正しい行動をとるという
ことが、これからとても大切です。
私がご案内している
篠研企画 工藤尚美セミナー
「ビジネス日本語教育を行う上での留意点
-ビジネス日本語教育を始める前に知っておくべきこと-」
東京会場 :https://www.kanjifumi.jp/kudo_seminar/
福岡・大阪会場:https://www.kanjifumi.jp/kudo_seminar2/
も、ビジネスパーソンの社会的背景を学ぶ場として
企画したものです。
ビジネス日本語教育の入り口と考えていただければ
いいでしょう。
その上で、その後は小山さんのセミナーに参加するなどして、
具体的な考え方や指導法に落とし込んでいただければと
思います。