母語の定義を厳密に考えてみる。
コース開始前には、ニーズ調査やレディネス調査を
します。
その時に、学習者の母語を問うことがよくあります。
それによって、例えば漢字圏か非漢字圏かわかれば
特にその後の漢字(語彙)指導やクラス分けの参考
になりますし、
学習者の母語が分かり、その母語話者特有の誤用や
学習上の困難点を事前に把握することによって、
より質の高い教育をデザインすることができるわけです。
ところが、学習者によっては、
「先生、私の母語は何ですか。」
と逆に聞いてくる場合もあります。
例えば、
小さいときからいろいろな言語圏を渡り歩いて
数か国語が話せる学習者などがそうですし、
中国語母語話者の父と英語母語話者の母を持った
韓国語母語話者である学習者などもそうです。
そういう学習者の中には、
「どの言語もそこそこ使えて、実際そこそこ
使ってるし。
そんな私って、どうなんですかね。」
のような感じになるわけです。
ところで、
そもそも「母語」って、何でしょうか。
よくある定義が、
「一番初めに身につけた言語」
といったもの。
もちろん、これも間違いではありません。
ちなみに私は、日本語しか使えないこってこての
日本人ですので、この定義で十分(笑)
皆さんのお手元の参考書には
どう書かれていますか?
ただ、上記のようなちょっと複雑な言語環境の中で
生きてきたような学習者の場合、
「最初に身につけたのは●●語だけど、
私の思考を司っているのは●●語。」
のようなこともあるので、この定義だと
ちょっとシンプルすぎるんですね。
もう少し、厳密に、突っ込んだ定義が必要に
なってくるわけです。
そこで、参考になるのが、平成24年の検定試験にも
出題された、
スクトナブ=カンガスとフィリプソンの母語の定義。
(舌噛みそうですな。笑)
彼らは、母語を以下4つの観点から定義しました。
---------------------------‐
1.起源:いちばん最初に習得した言語
2.能力:もっとも熟知している言語
3.機能:もっとも頻繁に使う言語
4.アイデンティティ:Identification
a)自分が母語だと見なしている言語
b)他人によって母語だと見なされている言語
----------------------------
この4つの観点から、本人が最もしっくりくる言語、
4つの観点のうち最も価値を置いている項目に沿った
言語を選んでもらえればいいのではないかと思います。
この定義、検定試験に出題されただけでなく
現場に立った時に知っておきたい知識ですので、
通信講座「篠研の検定対策」の講義資料
「No.080 習得過程(第一言語・第二言語)」
にもしっかり盛り込んでいます。
将来、多言語・複言語環境で育った学習者に対して
適切なアドバイスができるようになるためにも、
今一度、母語の定義を厳密に考えてみては
いかがでしょうか。