アメリカには「コメ」「イネ」「メシ」がない?
以前、海外在住の篠研会員様から
「英語には『コメ』『イネ』『メシ』にあたる
言葉がないので、学習者に指導するとき苦労する。」
という話を聞いたことがあります。
確かに、日本人にとってはなじみ深いこの言葉も
そうした言葉のない学習者に教えるとなると、
それぞれの写真を見せたり、学習者の分かる日本語や
学習者の母語で説明したり、なかなか厄介かもしれません。
そういえば、「ごはん」という言葉は
炊いた「メシ」をあらわすこともあれば、
単に「食事」を表わすこともありますね。
このように、モノは同じでもその状態によって
異なった呼び名があるものは、
単に呼び名だけの問題ではなく、その背後に
文化や生活様式がかかわっているだけに、
指導の際には注意が必要です。
とりわけ食に関する言葉に、そうしたものが多い
ようです。
検定試験にもちょこちょこ出題されています(^_^)
以下、
通信講座「篠研の検定対策」講義資料
「No.089 社会文化能力【基礎項目】」
より。
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▼食に関する言葉
衣食住、とりわけ食に関する言葉の中には、
文化の違いを顕著に表している事例が多くあります。
例えば、日本語では温度の差によって「水」と「湯」
という固有の語彙がありますが、
英語では前者は「water」、後者は「hot water」と
「water」に形容詞をつけることで区別しています。
このことは、日本人は温度の差を非常に大きな差である
と受け止めているのに対して、
英語母語話者はさほど大きな差ではないととらえている
ためと考えられます。
また、日本語ではその状態によって「コメ」「イネ」
「メシ」という固有の語彙がありますが、
英語にはそれにあたる語彙はありません。
このことは、これら3者がそれぞれ日本の食文化や
ライフシーンに固有の役割や意味づけをもって
しっかりと根付いているからだと考えられます。
さらに、日本語ではブリは出世魚と呼ばれ、関東では
「モジャコ→ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ」、
九州では「ワカナゴ/ヤズ→ハマチ→メジロ→ブリ」と、
成長過程に応じた語彙があります。
これも、国土を海に囲まれ、水産資源の豊富で、
それが日本の食文化の中枢を担ってきた日本
ならではの現象と言えるでしょう。
これら一連の食を表す言葉で注目すべきことは、
すべて単純語レベルでそれぞれの状態を区別した
語彙があるということです。
このことは、これらの語彙が言語形成の初期の段階から
存在していることを意味し、
それだけ日本人の言語生活ひいては文化活動に古く
から密接にかかわってきたと言うことができるのです。