田中君が穴に落ちたのは、山田の仕業か、それとも…。
前回の続き。
自動詞文から変形させるとき、
他動詞文か、使役文か。
ポイントは、他動文、使役文の対象が有情名詞か
無情名詞か、ということ。
無情名詞は、自ら動く(意志を持つ)ことが
できないので、
主体が直接手をかけて事態を成立させる
他動詞「立てる」を使う。
有情名詞は、自ら動く(意志を持つ)ことが
できるので、
主体の働きかけで自ら動くことで事態の成立を
表す使役「立たせる」を使うのです。
これが、自動詞文を他動詞文にするか使役文に
するかの基本的なルール。
ここで一見落着と思いきや、
学習者が、すかさず、
「先生、ということは、
・田中君が穴に落ちる。
は、
・山田君が田中君を穴に落ちさせる。
ですね。
よくわかりました。
ありがとうございました!」
いやいやいや、それは違う!!
さあ、困った(>_<)
さて、あなたならどう説明しますか。
というのが、前回までのお話。
考えられましたか?
確かに、「田中君」は立派な有情名詞。
であれば、原則からは「落ちさせる」
が使えそうなもの。
しかし、正解は「落とす」。
一見矛盾するような感じですが、
実は、根底で原則と繋がっています。
そもそも使役を使うのは、
主体の働きかけによって、有情名詞たる
対象が行動を起こすことで事態が成立する場合。
翻って、
・山田君が田中君を穴に【落ちる】。
という文は、田中君の意志で穴に落ちる
という意味でしょうか。
いいえ、そんなわけはありません。
そうではなくて、山田君が田中君を
穴に突き飛ばしたから、
田中君は穴に落ちたんです。
ここをもし、「落ちさせた」という表現を
使ったら、
山田:おい、田中!穴に落ちろ!
田中:わかった!落ちるぞ!見てろ!(ドーーン!)
みたいな感じになってしまいます。
(いったい、誰得?(笑))
つまり、能動文(=田中君が穴に落ちる)
の主体(=田中君)がたとえ有情名詞で
あっても、
その主体の意志とは無関係に事態が起こる
ことをいう場合には、
使役文ではなく他動詞文で表すのです。
なるほど!!(^_^)
この辺りの理屈を腹落ちさせるためには
・田中君が穴に落ちた。
・山田君が田中君を穴に落とした。
のように、
1.能動文の主体が有情名詞。
2.能動文の主体の意志とは無関係に物事が
起こることを表す他動詞文。
という条件を満たす文のペアを作ってみると
いいでしょう。