「橋渡し推論」「精緻化推論」の知識は、何の役に立つのか。

冒頭でも少し触れましたが、

今回の直前対策セミナーで解説した、

「橋渡し推論」
「精緻化推論」

について、話しそびれたことがありますので
この場を借りて補足説明を。

まずは、セミナー中に解説した内容の復習。

 

「橋渡し推論」とは、2つの情報をつなぐ
ために行う推論のことで、

読解活動の最中に行われる点に特徴があります。

 

例えば、

「明日テストがある。今日は徹夜だ。」

という文を読んで、

「テストのために今晩徹夜をするだな。」

と推論するなどがこれに当たります。

 

実は、推論にはもう1つ、「精緻化推論」と
いうのがあります。

 

「精緻化推論」とは、文章の意味内容を
より豊かに理解するために行う推論のことで、

読後に行われる点に特徴があります。

 

例えば、

「マンションの部屋から富士山が見えた。
きれいだった。」

という文を読んで、

「この人は、マンションの高層階に住んで
いるんだな。」

と推論するなどがこれに当たります。
(なので、問題の答えは4番と。)

 

と、ここまではセミナーでお話しした通り。

で、こういう話をすると、

「理屈は分かりました。
でも、そんな小難しいことを知ったところで、
何の意味があるんですか?
授業の役に立ちますか?」

と思われるかもしれませんね。

 

はい、役に立ちます。
しかも、かなり(^_^)

 

私たち日本人が、上のような推論をスムーズに
できるのは

とりもなおさず、書き手と同じようなバック
グラウンドを持っているから。

 

ところが、違うバックグラウンドを持っている
学習者の場合、

日本人と同じような推論が、スムーズにできない
ことがあります。

 

その結果、学習者はそこで思考がフリーズして
しまう。

 

そのことを教師が敏感に感じ取って、しかる
べきフォローをすればいいのですが、

もし、それができなければそのままです。

 

これについて、

東大や長崎大で教鞭をとられた後、ベトナムで
日本語教育のなさっていた宮原彬先生のこちらの
書に、興味深い記述があります。

宮原彬(2014)『ベトナムの日本語教育』本の泉社
https://www.amazon.co.jp/-/en/%E5%AE%AE%E5%8E%9F-%E5%BD%AC/dp/4780711681

(この本、ベトナム人学習者がどのような日本語に
つまづくか、豊富な具体例で示していてお勧めです。)

 

この中に、

「2 学習者のとまどいを引き起こす文(ないしは語句)
のタイプ
2.1 主に社会的状況の違いに起因するもの
2.1.1 社会的背景の違いから来るとまどい」

で、以下のような例文とその理由を紹介しています。
(なお、例文後の(  )の語は、宮原氏の『用例集』の
の見出し語を表しています。)

======ここから=================

(5)きょうはご飯を作る時間がなかったので、インスタント
ラーメンで我慢した。(がまん)

(6)外泊が続くと、体が疲れます。(がいはく)

(7)日本は自然保護に消極的だ。(しょうきょくてき)

同じ品物や行為・行動の評価が社会によって違うのはしばしば
あることであるが、その違いから時としてとまどいが生まれる。
また、翻訳しようとすると、読み手の反応が予想されるため、
さらにとまどいが加わる。(5)ではベトナムでは“高級な”
食べ物である「インスタントラーメン」でなぜ「我慢した」と
なるのか、(6)では、ホテルなど“快適な”「外泊」がなぜ
「疲れる」のか、また、(7)では、ベトナムと比べればはる
かに「自然保護」に熱心な日本がなぜ「消極的」なのか、が問
題となる。

======ここまで=================

例えば、(5)の例文を私たち日本人がスッと理解できる
のはそもそも

「インスタントラーメンは、安い食べ物。」

という共通認識、そして

「普段はもっといいものを食べている。」

という精緻化推論が自然にできるから

「我慢した」

の意味が理解できるのです。

 

しかしながら、

「インスタントラーメンは、高級な食べ物。」

という価値観を持っているベトナム人学習者
の場合、とても

「普段はもっといいものを食べている。」

と推論することなどできません。

 

だから、

「なぜ『我慢した』になるのか」

となって、理解がそこでフリーズしてしまう
んですね。

 

もしかしたら、こうしたことは表面には
出てこなくても、

学習者の学習の中では結構起こっていること
なのではないかと思います。

 

であれば、私たち教師は、授業で扱う文章を
いま一度、

「日本人ならではの推論ができて初めて
文章として成立するものはないか。」

と見直し、

もしあれば、そこをどう授業で扱うか
しっかり準備しておく必要があるわけで、

その意味で、「橋渡し推論」「精緻化推論」の
知識は、授業のクオリティを上げる大事な視点
ではないかと思うのです。

 

この1例からみても、検定試験がいかに
普段の授業に直結したものであるか、

というのがご理解いただけるでしょう。


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