「まづ、水泳場には大会がありました。」(その3)
前々回からの続き。
このシリーズは、先週実施した検定会員
限定のオンラインサロン
「篠研サロン-検定対策部」
で行ったものです。
とてもためになりますので、いいなと思っ
たら、ぜひ通信講座にご入会くださいね。
で、映画ウォーターボーイズのオープニン
グの3分間の内容を書いた、
韓国人の男子学生の作文の冒頭の一文目が
こちら。
「まづ、水泳場には大会がありました。」
このうち、今回は「水泳場」について
考えてみます。
ここ、修正するかどうかは結構微妙かも
しれませんね。
「言いたいことはわかるから、そのままで
もいいんじゃない?」
「いやいや、そんな言い方日本人はしない
から、やはり直した方がいい。」
などなど。
もちろん正解はありません。
作文全体のバランスもありますし、学習者
のレベルも考慮する必要があります。
ただ、この「水泳場」については、ちょっ
と驚きの事実があります。
それは、
「そもそもそんな語彙、日本語にない。」
ということ(笑)。
試しにお手元の国語辞書で調べてみて
ください。
ありますか?(ないでしょ(^_^))
このように言うと、
「でも、うちの近所に静岡県富士水泳場
があるんですけど。」
「うちの近所にも東京辰巳国際水泳場が
あります。」
という方がいらっしゃいますが、この場合
固有名詞なので、また別の問題です。
一般名詞として、日本語には「水泳場」
という言葉がないんですね。
実は、この話には後日談があって、
日本語教師志望でJLPT-N1にも合格している
韓国人女子学生にこの作文を見せ、
「『水泳場』って言葉、日本語にないん
だよ。」
と話したら、その女子学生は驚いて、
「えっ!ないんですか!
でも、『運動場』はあるじゃないですか。
韓国語には『水泳場』という言葉があり
ます。」
と言ったんですね。
つまり、この作文を書いた男子学生は、
「日本語には『運動場』という言葉もあるし、
韓国語にも『水泳場』という言葉もある
から、日本語にも同じ言葉があるだろう。」
と考えて(あるいは、考えるまでもなく
無意識に)、この文を作ったんだろうと
いうことなんです。
検定試験でも、母語干渉とか負の言語転移
がよく出題されますが、
今回の例は、母語の影響がマイナスに働いた
例と言えるかもしれません。
ただ、私としては、むしろ「水泳場」に
あたる言葉が日本語にないということの方が
不思議な感じがします。
さらに、
「じゃあ、どう直したらいいのか。」
ということなわけですが、
例えば、「水泳場」を「プール」に置き
換えても、やはりこなれた日本語とは言え
ません。
皆さんなら、どう直しますか。
私だったら、
「高校で水泳大会がありました。」
と直すでしょう。
ここで重要なのは、「水泳」という情報
を文のどこに盛り込むかです。
無理やり「水泳場で」とか「プールで」
とか言うよりも、
「水泳大会」とすれば、それだけでプール
なりなんなり、然るべき施設で行われた
というのは伝わります。
言語には、線条性という性質があり、
1本の線の上にどのように情報を乗せるか
というところで語順という問題が出るわけ
ですが、
今回の「水泳」という情報の乗せ場所も
大きく言えば、こうした言語学の内容と
リンクしているんですね。