学習者の誤用には寛容なのに、自分の失敗には…。

学習者の第二言語習得において、
かつて誤用は悪しきものと捉えられて
いました。

なぜなら、教師が教えた通りに言葉を
使えば、誤用など起きるはずがないと
考えられていたからです。

だから、誤用を犯してしまうのは、
勉強したことをちゃんと身につけて
いないから。

有体に言えば、「勉強が足りない。」
ということですね。

ですが、今は違います。

学習者は、授業で勉強したことを
そのまま鵜呑みにして身につけている
わけではない。

彼らは彼らなりに、授業で教わったこと
を踏まえながら、

「この文法は、こういうことかな。
それとも、こういうことかな。」

と考え、

また、授業以外の日常生活で日本語に
触れることで、

「この言い方は、こういう意味で、
こういう時に使ったらいいんじゃ
ないかな。」

と、自分なりにルールを仮に作り、
(これを「仮説」といいます。)

そのルールがあっているのかどうかを
確かめるべく、

まわりの日本人にぶつけてみて反応を
見る(これを「検証」と言います。)

もし、自分の仮説が合っていれば、
そのまま自分の言語体系に取り込むし、

合っていなければ(つまり誤用となれ
ば)、また改めて仮説を練り直す。

そうやって、彼らは日本語を習得して
いっているわけですね。

こう考えれば、誤用は学習者が仮説検
証サイクルを高速回転させている、

すなわち、言語を習得している証と言
え、

その副産物として不可避的に出てくる
ものなので、

決して悪いものではなく、むしろ、
積極的に言語習得をしている証拠だ!

と、肯定的に捉えるのが今のトレンド
なんですね。

かくして、私たち教師は学習者に、

「間違ってもいいから、失敗しても
いいから、どんどんしゃべってご
らん。書いてごらん。」

と指導するわけですが、

実は、これとまったく同じことが、

私達自身にも言えるということに
気づいている方が、意外に少ない
ように思います。

例えば、検定試験に合格したいとし
ます。

検定試験に合格したいのであれば、
当然のことながら、勉強しなければ
なりません。

ですが、多くの方は、

「何から始めたらいいのかわからない。」

「どの教材を使って勉強したらいいのか
わからない。」

「今は忙しいから、時間ができたらやろ
う。」

「今日は雨が降ってるし。」(笑)

などなど。

とにかくいろいろな理由をつけては、
最初の一歩を踏み出そうとしないんで
すね。

おそらくその根底には、

「勉強で間違いを犯したくない。」
「勉強で失敗したくない。」

という意識が強いからだろうと思われま
す。

確かに、失敗はしなくて済むならしない
ほうがいい。

しかし、失敗の1つもせずに、

ちゃっかり成功だけいただこうというのは、
あまりにも虫のいい話。

もし100%失敗したくないのであれば、
その唯一の方法は「何もしない」こと
です。

何もしなければ、100%失敗はありませ
ん。

その代わり、100%合格もありません。

つまり、目先の失敗に恐れるあまり、
「合格不可能」という大きな失敗、

そして、なにより

「人生は有限。死んだらそれまで。」

という真理が見えてないんですね。

検定試験に合格するような人は、考え
方が違います。

「多少の失敗は、最初から織り込み済
み。

だからこそ、とにかく最初の一歩を
踏み出せ。

おかしいと思ったら、その時に軌道
修正すればいい。

なにより時間がないのだ。」

そう考えて、とにもかくにもガシガシ
やって、

高速でPDCAサイクルを回転させながら、
前に進むのです。

日本語の上達の早い学習者も同じで、
少々の失敗など気にせず、

その都度、その都度学びながら、とに
かくできることをガシガシやるんです
ね。

そうやって、試行錯誤、無我夢中で
取り組む。

そして、気がついたらいつの間にか
高みに到達している。

そういうものなんですね。

死ぬこと以外かすり傷。

それぐらいの気概がちょうどいいのです。


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