実はおもしろい検定試験（アラビア語が日本語に聞こえる！）

日本語教育能力検定試験に出てくる
小難しい専門的な概念を、

日常生活に落とし込んでみると、
意外なところで応用されていると
気づかされることがあります。

今回は、平成29年の試験I問題３Ｄ
【人間言語の特徴】の問題から。

「そんな、いかにもお堅そうなタイトルで、
　本当に私をおもしろがらせてくれるの？」

まあまあ、とりあえず読んでみてください。

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問題３Ｄ

（問題文中略）

しかし、実際にはこのように限られていた要素
を使って、無限の出来事を表現することができ
る。これを可能にしているのが、言語の二重分
　　　　　　　　　　　　　　　　　Ａ
節性という特徴である。

（後略）

（17）文章中の下線部Ａ「二重分節性」の説明
　　として最も適当なものを、次の１～４の中
　　から一つ選べ。

　　１　文は形態素に分けられ、形態素は音素
　　　　に分けられる。
　　２　文は句に分けられ、句は語に分けられ
　　　　る。
　　３　言語記号は、意味と形式の二つの側面
　　　　に分けられる。
　　４　言語は、内容語と機能語の二種類に分
　　　　けられる。

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いかがでしょうか。

正解は

「１　文は形態素に分けられ、形態素は音素
　　　に分けられる。」

です。

この二重分節性という概念は、マルティネと
いう言語学者が提唱したもので、

検定試験対策では、ホントにサラーっと流さ
れる程度の扱いなのですが、

よくよく考えてみると、実におもしろい現象
です。

この二重分節性というのは、

「限られた音素でも、その組み合わせによっ
　て無限に形態素をつくることができ、ひい
　ては無限に文をつくることができる。」

ということを証明したという点で、とても
大きな意味があります。

実際、日本語には14ぐらいの子音と5つの
母音しかありませんが、

その音の組み合わせで無数の単語を作りだし
ているわけですから、すごいねという話。

で、この現象は、形態素→音素より、音素→
形態素で考えた方が分かりやすいので、それ
でもう少し詳しく説明します。

例えば、目の前の人が自分に向って何か
喋ったとします。

喋った瞬間は、単なる音の羅列でしかありま
せん。

例えば、こんな感じ。

（１）watashiwanihonjindesu。

つまり、音素。

言い換えれば、１つ１つの音がちゃんと聞き
取れました、という段階。

で、これを聞いた私たちは、次に（２）のよう
に区切ると。

（２）watashi│wa│nihon│jin│desu。

この区切りは、つまりは言葉の最小の単位で
ある形態素ごとの区切り。

それに意味をつけて（言い換えれば、言葉と
認識して）（３）のように解釈するわけです。

（３）私は日本人です。

つまり、私たちが（３）のような文に至る
までには、

（１）の音素の理解と、（２）の形態素の理
解という２段階を踏む、ということなのです。

これが、二重分節性の本質です。

で、問題は、どうして（１）のような音素の
羅列を（２）のように区切ることができるのか、
ということです。

それは、そもそも私たちの頭の中に日本語の
辞書のようなものがあって、

その辞書の中の言葉と、目の前の音素の羅列
を照合しながら、意味のまとまりごとにブツ
ブツ区切っているからなんですね。

ということは！です。

同じ音でも、聞いている人の頭の中の辞書に
よって、形態素の区切り方、

ひいては、文の理解の仕方がまるっきり変わっ
てくる可能性があるということ。

昔、「What time is it？」を「掘った芋いじ
るな。」で覚えろ、というのがありましたが、

それは、取りも直さず日本人の耳にはそのよう
に聞こえるからであって、

これこそ二重分節性の賜物ということができる
わけですね。

こうした現象を、言語学では「空耳（そらみみ）」
と言います（嘘です(笑)）

というわけで、「空耳」の最高傑作の動画を
ご覧ください。

サッカーワールドカップ出場をかけた中東地域
の決勝戦。

ちなみに、バーレーンの言葉はアラビア語な
のだそうです。

一見かび臭い言語学の知識のおかげで、私達
の日常は、かくも豊かになるのです。

マルティネ、やるな！(^_^)

【空耳MAD】バーレーンの実況が日本語にしか
聞こえない件
https://youtu.be/-0jCWkM15ag