なぜ言語の類型や一般言語学を学ぶ必要があるのか。

日本語教育能力検定試験の出題範囲に

▼言語の類型
▼一般言語学

という項目があります。

言語の類型で扱われる主なものは、

・言語類型論-膠着語、孤立語、屈折語、抱合語
・語順-SOV言語、SVO言語、VSO言語
・言語の普遍性

といったところ。

また、一般言語学で扱われる鉄板テーマといえば、

・言語の特徴-音声性、線条性、恣意性、構造性、
       生産性、二重分節性、ラングと
       パロール、超越性

このように言うと、

「確かに試験に出るから勉強しはするけど、
 こんなの覚えて何の役に立つの?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

結論から言うと、上記内容は日本語教育をする
上でもの凄く重要ですし、現場に立ったときに
もの凄く役に立ちます。

何と言っても、学習者の母語の言語類型や
語順を知っておくと、その学習者の日本語学習の
困難点の一端を事前に予測することができます。

例えば、学習者の母語の語順がSVO言語であれば、
日本語はSOV言語なので、語順に困難を感じ、

「私 行きます 学校へ。」

のような文をうっかり作ってしまうんじゃないか、
といった予測が立つと。

もっと言うと、偶然をはるかに超える頻度でSVO
言語は前置詞を、

SOV言語は後置詞(日本語で言えば助詞)をもつ
ので(これを含意的普遍性といいます)、

「私 行きます へ 学校。」

のような文を作ってしまうかも、といった予測
まで立つわけです。

とっても役に立つんですね(^_^)

ですが、私はそれ以上にこれらの分野を学ぶ
意義があると考えています。

その意義とは、

「日本で生活する学習者の大変さを理解する
 ことができる。」

ということ。

それを知るために、1つタスクをやってみま
しょう。

題して「変な自己紹介」(^_^)

1人でエア自己紹介をしても構いませんし、

3~4人のグループでやってみても構いま
せんので以下の要領でやってみてください。

-------------------

【タスク】変な自己紹介

活動の目的:私たちが普段、いかに母語の
 ルールにのっとってコミュニケーション
 しているかを理解する。

【内容】
・3~4人のグループを作ってください。
・グループ内で1番から順に番号をつけて
 ください。
・これから1番の方から順に自己紹介をして
 もらいます。自己紹介の内容は、名前、
 出身地(例:大分)、趣味、将来の夢です。
 時間は3分です。ただし、条件があります。

    ◆    ◆    ◆

【1の方】(時間3分)

 あなたは、「主語-目的語-述語」の順で
話せませんが、かわりに「主語-述語-目的
語」の順でなら話せます。発話中、常に「主
語-述語-目的語」の順で話してください。
それが、あなたにとって最も心地いい話し方
です。

【2の方】(時間3分)

 あなたは、「名詞-助詞」の順で話せません
が、かわりに「助詞-名詞」の順でなら話せま
す。発話中、常に「助詞-名詞」の順で話して
ください。それが、あなたにとって最も心地い
い話し方です。

【3の方】(時間3分)

 あなたは、日本語のアクセント型のうち中高
型、尾高型、平板型は発音できませんが、かわ
りに頭高型なら発音できます。発話中、単語は
すべて頭高型で発音してください。それが、あ
なたにとって最も心地いい話し方です。

【4の方】(時間3分)

 あなたは「カ」の音が発音できませんが、か
わりに「タ」の音なら発音できます。発話中、
「カ」の音を、すべて「タ」の音で発音してく
ださい。それが、あなたにとって最も心地いい
話し方です。

-------------------

いかがでしょうか。

【1の方】のタスクは、まさに語順。

【2の方】のタスクは、先の含意的普遍性の
一現象。

【3の方】【4の方】のタスクは、言語学の
中の音声学の内容。

言語の類型や一般言語学で扱う抽象的な
理論を、普段の言語活動に落とし込むと
このようなタスクになるんですね。

で、実際にこのタスクをやってみると、もの
凄く不自由を感じたのではないでしょうか。

「『主語-述語-目的語』の順で話そう
 とすると、途中からどう話したらいいのか
 わからなくなってしまう。」

「日本語を『助詞-名詞』の順で言うために
 いちいち順番を考えながら喋らないといけ
 ないから、もの凄く不便。」

などなど。

本当におっしゃる通りだと思います。

ですが、よく考えてみてください。

日本に住む外国人は、朝起きてから夜寝る
まで、1年365日、

常にこの不自由さに晒されながら、不得手な
日本語で日本人とコミュニケーションし、

時々、

「変な日本語。」とか
「そのテ形は違います。」とか

日本人にダメ出しを食らいながら日々生活
しているわけです。

しかも、日本にいる以上、この環境から
逃げることはできません。

先のタスクは、たかが3分。

なので、私たちは「楽しかったね。」で
済みますが、

あの不自由さが永遠に続くと想像して
みてください。

耐えられますか。

私なら3日目に発狂します(笑)

そう考えると、言語の類型や一般言語学
を学ぶということは、

確かに言語の多様性を知り、視野を広げる
といったこともありますが、

日本語を学ぶ学習者の苦労の一端を知る
機会を得るという点でも、非常に意義がある
と思うわけです。

もちろん、篠研の通信講座でも言語の類型、
一般言語学は、しっかり解説しています。

本物の検定試験対策を学びたいのであれば、
ぜひご入会ください。

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《令和4年新出題範囲、完全対応》

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