キーワード解説「み」

これまでの日本語教育能力検定試験に出題されたキーワードを、随時解説していきます。知識の補完・整理にご活用ください。

未知なる自己(みちなるじこ)★

人格構造のうち、自分にも相手にも知られていない自分。

D.C.バーンランドは、未知なる自己(彼は「U」と表現しています。)を以下のように説明しています。

人格図の中心にあるUは、無意識の領域を形成する心理的前提や内的衝動で、ほとんど探りえないものを示す範囲である。自分のことばや行為の根源を全面的に理解している者はひとりもいない。この領域は貫通不可能に近い壁に取り囲まれていて、最も親密な人間関係や専門家の処置でない限り、めったにコミュニケーションされることはない。
(『日本人の表現構造』p.39-40)

彼は、人間の人格構造をその中心から「未知なる自己」、「私的自己」、「公的自己」と、3重の同心円モデルを提唱し、それによって個人レベルの異文化コミュニケーション摩擦のメカニズムを解明しています。

例えば、比較的私的自己が厚く公的自己が薄い日本人と、逆に比較的私的自己が薄く公的自己が厚いアメリカ人が、アメリカ式コミュニケーション(アメリカ人にとって快適な心的距離のコミュニケーション)をとった場合、以下の図のようになるととらえることができます。

図 アメリカ式異文化コミュニケーション(D.C.バーンランド『日本人の表現構造』p.47)
Scan10159

この時、アメリカ人にとっては、自分の公的自己の中に日本人の自己が十分入り込んでいて(つまり十分な交流ができていると感じていて)、なおかつ自分の私的自己内にまでは入り込まれていない(つまり、プライバシーを侵害されていない)ので、快適なコミュニケーションと感じます。

一方、日本人にとっては、自分の公的自己を突き破って私的自己内にまでアメリカ人の自己が入り込んでいる(つまり、プライバシーを侵害されている)ので、不愉快なコミュニケーションと感じるわけです。

私も学習者と接していてある程度親しくなると、急に向こうがさらに親しげに(というか、若干馴れ馴れしいと感じることも…)接してくる時があったりします。そんな時、「もしかしたら…」と思えれば、多少なりとも相手を許すことができるでしょうし、また、相応にうまく対処するだけの心のゆとりを持つこともできるのではないかと思います。


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