経過措置対象者向け講習IIでも扱われた「プレゼンス理論」とは。
私は、登録日本語教員の経過措置の
E-2ルート対象者で、
登録日本語教員の資格取得に係る経過措置
https://www.bunka.go.jp/
昨年末、講習IIを受講し、登録日本語教員の
資格を得ました。
講習IIというのは、これまでの民間試験
(日本語教育能力検定試験)から
国家試験(日本語教員試験)に代わるに際し、
新たに盛り込まれる出題内容についての
講義でした。
講習IIの主な内容は、
▼「日本語教育の参照枠」
▼日本語教育とICT
▼著作権
「日本語教育の参照枠」については
言わずもがなですが、
「日本語教育とICT」は、昨今のICT技術、
そして、インストラクショナルデザイン
(以下、ID)の進展に伴って、
非常に多くの内容が盛り込まれて
いました。
今後は、IDの様々な理論が試験に出題
されることになるでしょう。
そこで今回は、講習IIでも扱われた
「プレゼンス理論」
について、
改訂作業終了ほやほやの
WEBで学ぶ通信講座
「篠研の国家資格日本語教員試験対策」
https://www.kanjifumi.jp/
の講義資料「No.074 教育工学」
から抜粋して紹介します。
ここまで解説している試験対策本は
ないのではないかと思います。
(でも、出題されますよ(^_^))
以下。
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プレゼンス理論
新型コロナの影響により、一気に学習の
オンライン化や遠隔授業が普及しましたが、
同時に教師と学習者、あるいは学習者同士が
対面しないため、学習時の孤独感や受け身の
姿勢、
それに伴う学力低下や自己効力感の低下など
が問題視されるようになりました。
そのような中で出てきたのがプレゼンス理論
です。
プレゼンス理論とは「(教師や学習仲間、
親などの)存在感の程度が高ければ、
学習意欲や満足度の向上などの情意的効果が
高くなり、
ひいては学習効果をもたらすという考え方」
(保坂(2021)p.1)を言います。
つまり、教師や学習仲間、親などの存在
(=プレゼンス。Presence)そのものが学
習成果に影響を与えるというものです。
この理論は、ギャリソン(Garrison)が提
唱した、
対話を通じて相互に学び、知識を構築して
いく学習モデルである探求の共同体モデル
(Community of Inquiry Model。 CoIモデ
ル)の中核をなす概念です。
プレゼンスには、さらに
「メディアを介した相互作用によって、相
手がそこにいると感じられる程度」(山田
他(2012)p.463)を表す社会的存在感
(Social Presence)、
「学習内容や教師の身振りや語り口などが
もたらす」(保坂・島田(2021)p.1)教授的
存在感(Teaching Presence)、
さらに、学習者が探求共同体とのかかわり
を通じてどの程度意味を構築するかを表す
認知的存在感(Cognitive Presence)があ
ります。
先述の通り、遠隔授業では、とかく学習
時の孤独感や受け身の姿勢、
それに伴う学力低下や自己効力感の低下な
どが問題になりますが、
プレゼンスを高めることで、以下のような
教育効果が期待できます。
1.学習意欲と学習の継続率の向上。
2.教師と学習者、あるいは学習者同士の
インタラクティブな学習環境の構築。
3.より深い学びを通じた理解度や応用力
の向上。
4.心理的安全性や対話の機会の確保に
よる自律的学習の促進。
参考文献
保坂敏子(2022)「オンライン遠隔日本語授
業の背景とデザインの視点─ 同価値
理論・プレゼンス理論の提案 ─」
『小出記念日本語教育研究会論文集』
30号 pp.123-142
保坂敏子・島田めぐみ(2021)「オンライン
授業におけるピア・ラーニングのデザ
イン −「プレゼンス」の観点から振
り返る− 」第9回CASTEL/J(日本語
教育支援システム研究会)発表資料
山田政寛・北村智・松河秀哉・御園真史
(2012)「テキストCMC環境での議論に
おける社会的存在感」日本教育工学会
『日本教育工学会第28回全国大会講演
論文集』pp.463-464
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いかがでしょうか。
かつて、私の同僚で日本の古典文学を
専門とする先輩教師が、私に
「教師の究極の形はなんだかわかるかい。」
と質問してきました。
「わかりません。何でしょう?」
と尋ねたところ、
「お地蔵さんだよ。」
と答えました。
曰く、
「お地蔵さんは、何もしない、何も言わない。
ただ黙ってそこにいるだけ。
でも、それだけで人々は勝手に前で手を合
わせて『ありがたい。ありがたい。』と
言って心を清めてくれる。
教師の目指すところもそれと同じだよ。」
そのとき私は「なるほど。」といたく感心
しました。
これこそ究極のプレゼンスです。
プレゼンス理論という言葉こそ知らなくても、
日常的に経験しているんですね。
教育工学というと、何かとっつきにくい印象
を持たれるかもしれませんが、
実はとても身近で親近感のあるものなのかも
しれません。