精緻化推論で豊かな読解授業を。

読解活動における推論には、

・橋渡し推論
・精緻化推論

の2つがあります。

橋渡し推論とは、

「テクスト(ことばで情報を伝えて
 いるもの。筆者注。)の意味的結
 束性(coherence)を構築する情報
 を補うことでテクストの内容理解
 に必要不可欠な意味的ギャップを
 埋める推論」
 (小池(2003))『応用言語学事典』
  研究社 p.509)

のことを言います。

つまり、一見関連性のないようなある
2つの情報を関連づける(=橋渡しを
する)ために行う推論のことで、

例えば、(1)(2)がそれにあたり
ます。

(1)「田中さんは新入社員だ。彼は
   営業部に配属された。」から「彼」
   が「田中さん」であると推論する。

(2)「山田さんが授業を休んだ。彼女は
   昨晩ひどい熱を出した。」から
   「彼女が熱のために授業を休んだ。」
   と推論する。

一方、精緻化推論とは、

「テクストの理解には必ずしも不可欠
 ではないが、理解した内容と既有の
 知識を結びつけることで、理解した
 内容をより豊かに精緻化する推論」
 (小池(2003))『応用言語学事典』
  研究社p.510)

のことを言います。

例えば、(3)(4)がそれにあたり
ます。

(3)「彼は、自宅のマンションのベランダ
   から正面に見える富士山の山頂を眺め
   た。」から、「彼はマンションの高層
   階に住んでいる。」と推論する。

(4)「まったく痛みなく歯を抜かれ、患者
   は大満足だった。」から、「歯を抜い
   たのは歯医者である。」と推論する。

この両者を一言でいえば、

橋渡し推論は、正確な読みのための推論、
精緻化推論は、豊かな読みのための推論、

と言えるでしょう。

試験対策、例えばJLPT対策では橋渡し推論
に重点を置いた指導になるでしょうし、

文学作品の読解であれば、精緻化推論に
重点を置いた指導になるでしょう。

専門学校や大学進学を目指した日本語学校
では、なかなか文学作品を熟読玩味する
機会はないかもしれませんが、

例えば、オンラインレッスンで学ぶ学習者
の中には、

「日本の文学を読んでみたい。
 日本文学を通して、日本の文化に
 触れてみたい。」

といったニーズがあります。

そういう場合、短編小説などを扱って
みるといいでしょう。

例えば、芥川龍之介の「蜜柑」などは、
当時の日本の社会状況なども交えながら
学習者と読むといいと思います。

この作品、2分ぐらい読めるほど短い
ですが、

感動で涙が出そうになりました。

芥川龍之介「蜜柑」
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/98_15272.html

あなたなら、この作品でどのような
精緻化推論をしますか。

どんなことを学習者と共有しますか。


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