『日本語教育の参照枠』を読む。(その14)

前回に引き続き

『日本語教育の参照枠報告』
 https://qr.paps.jp/ShqFB

今回は、その14回目。

長いシリーズですね(笑)

ですが、一度しっかり読み込んでおくと
今後いろいろな場面で議論する時に
スッと話に入っていけます。

しっかり読み込んでいきましょう。

というわけで、

今日は、

「III 日本語能力評価について 」

「2 「日本語教育の参照枠」における日本語
 能力観及び評価の考え方」

「(4)多様な評価の在り方と事例」

です。

以下。

===================

(4)多様な評価の在り方と事例

○ CEFR(2001)では、評価についての
論点として、「評価の方法や伝統はさまざま
であるが、

あるアプローチ(例:教師による評価)より、
別のアプローチ(例:公的な試験)の方が、
教育上の効果において絶対に優れていると考
えるのは間違いである。

本書にある共通参照レベルのような、一連の
共通基準の主要な利点は、

正にお互いに異なる評価の形式でも対応付け
が可能になることである。」ことを挙げ、

共通参照枠を通して対応付けた上で教育の目
的に応じて様々な手法を組み合わせたり、
取捨選択したりしつつ、

透明性と一貫性を持って評価を行うことを推
奨している。

○ 評価の在り方については、試験によるも
のとそうでないものがある。

試験によらない評価とは、言語を用いた課題
遂行能力や学習過程における様々な気付きや
学びを把握するための評価の方法のことを指
す。

言語能力の熟達度の評価は、そのカリキュラ
ムにおいて設定した学習目標や学習者の特性
に応じて、

試験と試験によらない評価を組み合わせて総
合的に実施していくことが望ましい。

○ 以下、1〜5の評価については、近年の
ICT 技術の発展により、

例えば、試験においてはCBT(Computer-
Based Test)の導入が進んでいるほか、

ウェブ上で作成し、記録を残す e ポート
フォリオなどが開発されている。

1 試験

ある教育プログラムにおける試験では、ある
期間内に扱った学習目標の到達度を測る試験
と、

学習した教育プログラムの構成やカリキュラ
ム、

教材にかかわらず、その時点で何ができるか
という熟達度を測る試験がある。

熟達度を測る試験については試験団体が実施
する試験を受ける場合もある。

試験による評価の利点は以下のとおりである。

・ 学習対象の学習成果を表す熟達度を、よ
 り一般的な言語能力尺度上に位置付けて表
 わすことができる。

・ 異なる試験間の測定道具としての共通性
 及び違いを明確にできる。

・ 国や機関を越えて共通に参照できる、日
 本語能力を評価する枠組みや構成概念の
 設定及び、測定道具(試験)の仕様を検討
 する基本設計図として活用できる。

・ 学習者が自身で言語能力の目標設定や評
 価(到達点の確認、調整)についての見通
 しを持つことができる。

2 パフォーマンス評価

パフォーマンス評価とは、学習者に例えば
ロールプレイやエッセイなどの言語的な課題
を与え、

その遂行の度合いを評価することをいう。

パフォーマンス評価は到達度、あるいは熟達
度を測る試験として実施する場合と、

試験によらない評価として実施する場合があ
る。

日本語教育においては産出(「話すこと(や
り取り)」、「話すこと(発表)」、「書く
こと」)についての到達度や熟達度を測るこ
とが多い。

特に就労場面における産出についての熟達度
を測ることについては、社会的に高いニーズ
がある。

パフォーマンス評価の利点は以下のとおりで
ある。

・ 単に、「できた・できない」だけの評価
 だけでなく、「何がどのくらいできたのか」
 について、多様な観点から評価を行うこと
 ができる。

・ 教師と学習者の双方がパフォーマンスに
 関する評価基準を共有することで、評価の
 透明性を高めることができる。

・ 学習者は与えられたパフォーマンス課題
 に対して、評価基準を基にした明確な
 フィードバックを得ることができる。

パフォーマンス評価を行う際には、ルーブ
リックによる評価を行う場合がある。

ルーブリックとは、例えば言語的課題(例え
ば「家族を紹介する」などの言語的タスク)
の達成度と文法的正確さや使用語彙の範囲、

発音などの質的側面等の観点を組み合わせた
評価基準表のことをいう。

ルーブリックによる評価の利点は以下のと
おりである。

・ 評価の観点を明示することで、個人的な
 価値判断による影響を避け、達成すべき
 目標を学習者と共有することができる。

パフォーマンス評価の例

◎ ACTFL-OPI(The American Council on
 the Teaching of Foreign Languages-oral
 proficiency interview)は、

 汎言語的に使える会話能力テストであり、

 ACTFL 言語運用能力基準に基づいて、初級
 から超級までの 10 レベルで判定される。

・ ACTFL-OPI の判定尺度と総合タスク
 (Global Task)(機能・タスク)
  https://00m.in/0J1Vj

・ 会話能力判定結果(日本語教育機関にお
 ける OPI 活用例〜A大学の事例〜)
 https://00m.in/MQ1H3

◎ 国際交流基金(2016)では、JF日本語
 教育スタンダードに準拠したロールプレ
 イテスト(A1〜C1)を公開している。
 https://00m.in/CJZIa

◎ 豊田市が運営する「とよた日本語学習支
 援システム」では、「とよた日本語能力
 判定」を開発し、

 4技能(聞く、話す、読む、書く)にわ
 たる独自の日本語能力レベルと能力記述
 (下表)によるパフォーマンス評価を
 行っている(豊田市ガイドライン)。
 https://00m.in/lJvmd

3 自己評価

自己評価とは、言語能力記述文のリストで
構成された自己評価表などを用いて、自身
の言語熟達度を把握することのほか、

学習に対する振り返りを記述し、学習の過
程で読み返したりすることを通して、自律
的な学習能力を育成することを目的とした
評価活動のことを指す。

自己評価の利点は以下のとおりである。

・ 試験による評価と同様に、学習者が自身
 で言語熟達度の目標設定や評価(到達点
 の確認、調整)についての見通しを持つ
 ことができ、

 自身の学習に対する意識を高めることが
 できる。

 また、学習過程で内省を行うことが、見
 通しを持った学習に加えて、学びの調整
 につながる。

・ 学習についての振り返りの記述を継続
 的に記し、ポートフォリオに記録として
 残すことにより、

 学習者及び、その周りの人々に学びのプ
 ロセスを示すことができる。

自己評価の例

◎ CEFRスイスプロジェクトの自己評
 価チェック表(Self-assessment checklist)
 では、各レベルの言語能力記述文につい
 ての評価を、

 自分で行うばかりでなく、教師による評
 価欄が設けられている。

また、個々の言語能力記述文が自分の目標
かどうかのチェック欄があり、学習者にそ
の項目の重要性も考えさせることができる。

この項目によって何をいつ学ぶかについて
教師が一方的に決めるのではなく、

学習者が自ら判断することによって自律的
な学習を促す効果がある。

https://00m.in/8qonI

◎ 文化審議会国語分科会(2012)「「生活
者としての外国人」に対する日本語教育に
おける日本語能力評価について」では、

「生活者としての外国人」向けの「日本語学
習ポートフォリオ」を公開しており、その中
で学習者による自己評価と教師によるチェッ
クリストの例を「生活上の行為達成の記録
(p.54)」として示している。

https://00m.in/gayiS

4 相互(ピア)評価

相互(ピア)評価とは、学習者とその周り
の人が相互に評価を行うことである。

クラスメートや家族、就労場面であれば職
場の人などから、

日本語の使用についてのコメントを得るこ
とで、自分の熟達度を多面的に把握するこ
とができる。

相互(ピア)評価の利点は以下の通りであ
る。

・クラスメートや周りの人々から学習につ
 いてフィードバックを得ることで、学習
 に対する動機を高めることができる。

 また、他の学習者の評価に関わることを
 通して自己評価に対する内省を深めるこ
 とができる。

相互(ピア)評価の例

◎ 近藤・品田・金・内海(2012、改訂新
版は 2018)では、日本語による課題達成
プロセスにおける評価活動として、

学習活動ごとに能力記述文を示している。

下記は、自己評価と学習者間による相互
(ピア)評価活動の例である(「自己ア
ピール」のタスク)。

CEFRとピア・ラーニングの理論を基に、
テキストはタスク形式であり、

それらを達成していくことで日本語で仕事
ができる力や、他者と協働する力を育成で
きる仕組みとなっている。

https://00m.in/ZBORF

5 ポートフォリオによる評価

ポートフォリオによる評価とは、多様な広
がりを見せる学習者の学習の成果及び達成
状況を学習者の様々な必要性、

性質や資質に応じて記述し、評価すること
である。

CEFR(2001)では、複文化・複言語能
力の育成を推進するため、

ヨーロッパ言語ポートフォリオ(European
Language Portfolio: ELP)を用いて学習者
一人一人が様々な面から自分の言語発達を
記録できるようにしている。

言語学習において、ポートフォリオは、筆
記試験の結果、

パフォーマンス評価で使用したルーブリッ
ク、自己評価チェックリスト、相互(ピア)
評価で行った、

他の学習者からのコメントシートをファイ
ル等に格納することができ、

学習者や教師をはじめとする学習者の周り
の人々は適宜これらの評価結果を参照する
ことで、

総合的な評価を行うことができる。

・学習者自身、教師、学習者の周りの人が、
 学習者の言語の熟達度の成長の過程を通
 時的に把握することができる。

・学習者が学習機関を移動し、新たに学習
 を始める際にポートフォリオを示すこと
 で、

 教師はその学習者がこれまで学んできた
 内容と熟達度が把握でき、

 適切な教育内容を準備することができる。

・ポートフォリオにおける振り返り記述な
 どについて、記述内容についての評価の
 観点をルーブリックなどに整理し盛り込
 むことで、質的な評価が可能となる。

また、評価の各段階に得点を与えることに
よって、数値化が難しい評価対象に総合点
を与えることができる。

ポートフォリオ評価の例

◎ 欧州評議会が公開しているヨーロッパ
言語ポートフォリオは、一つ又は複数の言
語を学ぶ学習者が言語の学びと文化の学び
について記録し、

振り返ることができるものであり、

言語パスポート、学習の記録、学習に関す
る資料の三つから構成される。

ヨーロッパ言語ポートフォリオは、学習者
の年齢や目的によって多種多様なものが公
開されており、

学習者の自律的な学習、複言語・複文化の
学びを促進するために利用されている。

◎ 文化審議会国語分科会(2012)は、
「生活者としての外国人」向けの「日本語
学習ポートフォリオ」を公開し、

ポートフォリオによる評価の方法を示して
いる。

また、文化庁事業等を活用し、各地域の機
関や団体が地域の実情や教育目的に応じた
ポートフォリオを作成している。

https://00m.in/7nQkX

◎ 国際交流基金のJF日本語教育スタン
ダードでは、ポートフォリオを評価の中心
の一つとして位置付け、世界各地でそれぞ
れの現場独自のポートフォリオを作成し、

評価活動を行っている(国際交流基金 2017)。

https://00m.in/kpfgw

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いかがでしょうか。

具体的事例を見たことで、かなりイメージが
鮮明になったのではないでしょうか。

具体と抽象を行き来することが、物事の
理解にはとても大切ですね。


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