『日本語教育の参照枠』を読む。(その7)
前回に引き続き
『日本語教育の参照枠報告』
https://qr.paps.jp/ShqFB
今回は、その7回目。
今日は、
「II 「日本語教育の参照枠」について」
の
「6 方略 Can do・テクスト Can do 一覧」
です。
今回は、報告書内の表も極力テキストに
落とし込みました。
以下。
===================
6 方略 Can do・テクスト Can do 一覧
○ 下の表はCEFRで公開されている方略
及びテクストについての言語能力記述文
(方略 Can do、テクスト Can do)の一覧
である。
翻訳については、CEFR日本語版(2014年
追補版)20の訳文を基にした。
なお、方略 Can do、テクスト Can do に
ついてCEFR補遺版 21では、大幅な改定
が行われた。
CEFR補遺版で示されたものについては、
今後掲載を検討することとする。
(1)産出的言語活動の方略についての言語
能力記述文
○ CEFRでは、産出的言語活動(やり取り、
発表、書くこと)の方略とは、
「能力を総動員し、種々の能力のバランス
を取り-つまり長所を生かし、弱点にさり
げなく対処し-課題の性質と手持ちの能力を
一致させることである。」
としており、次の3点について例示的な尺度
を示している。
・計画 : リハーサル、活用できる資源の探し
出し、聴衆への配慮、課題の適正化、メッ
セージの修正
・補償 : 言い直し、言い換え、一般化、L1
(第一言語)の表現を「外国語化」すること
・モニタリングと修正: 自分のコミュニケー
ションの成功をモニターすること、自己修正
計画
C2 B2 と同じ。
C1 B2 と同じ。
B2
発言内容及びその表現方法について計画を立て
ることができる。また、受け手に与える影響を
考えることができる。
B1
B1.2 新しい言葉の組合せや表現を稽古したり
試したりして、相手からフィードバックを得
ることができる。
B1.1 伝えたいことの要点を伝達する仕方を考
えることができる。その際、使える言語能力を
総動員して、表現のための手段が思い出せる、
あるいは見付かる範囲内にメッセージの内容を
限定する。
A2 自分のレパートリーの中から適切な表現形
を思い出して、使ってみることができる。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
補償
C2
すぐには思い出せない言葉を同等の表現で置き
換えることができ、余りにも流ちょうにそれを
行うので聞いている側はほとんど気が付かない。
C1 B2 と同じ。
B2 語彙やテクスト構成上の空白を補う間接的
な表現や言い換えを使うことができる。
B1
B1.2 直接当てはまる言葉は思い出せないが、
そのものの具体的な特徴を定義できる。
B1.2 自分の言いたかったことを、類似の意味
を持つ表現を使って言い換えることができる。
(例:バス=人を運ぶトラック)
B1.1 伝えたい概念に類似した意味を持つ、簡
単な言葉を使い、聞き手にそれを正しい形に
「修正」してもらうことができる。
B1.1母語を学習対象言語の形に変えて使ってみ
て、相手に確認を求めることができる。
A2
A2.2 手持ちの語彙の中から不適切な言葉を使っ
ても、言いたいことをはっきりとさせるために
ジェスチャーを使うことができる。
A2.1 直接、その物自体を指し示して、伝えたい
ことを相手に分からせることができる。
(例:「これをください」)
A1 利用できる言語能力記述文はない。
レベル モニタリングと修正
C2
難しいところを元に戻って言い直したり、言い
換えが非常になめらかにでき、対話の相手は
それにほとんど気が付かないぐらいである。
C1
難しいところは元に戻って言い直し、全く話の
流れを途切れさせることなく、本来言いたかっ
たことの言い換えができる。
B2
特に意識している場合や、誤解を引き起こして
しまった場合、言い損ないや誤りを修正するこ
とができる。
自分のよくする間違いが分かっていて、その点
に関して発言の際、意識的にモニタリングする
ことができる。
B1
B1.2 もし対話相手から問題を指摘されたなら、
誤解を招くような表現や時制などの混乱を修正
できる。
B1.1 自分が使った言語形式が正しいかどうか
確認することができる。
B1.1 コミュニケーションが失敗したときは、
別の方略を用いて出直すことができる。
A2 利用できる言語能力記述文はない。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
(2)受容的言語活動の方略についての言語
能力記述文
○ CEFRでは、受容的言語活動(聞くこと、
読むこと)の方略とは、
「その場にふさわしいコンテクスト(文脈・背
景)や世界に関する知識を特定して、その過程
において適切なスキーマ(既に知っていること
についてのまとまり)と想定されるも
のを活性化することである。」
としている。
例示的な尺度は以下の通りである。
手掛かりの発見と推論(話し言葉と書き言葉)
C2 C1 と同じ。
C1
コンテクスト上の、文法的、語彙的手掛かりか
ら、相手の態度や気持ち、意図を推測し、何が
次に来るかよく予測できる。
B2
要点の把握を含め、理解のために多様な方略を
駆使でき、コンテクスト上の手掛かりから理解
の当否を確かめることができる。
B1
自分の関心や専門に関連するテクストの中で、
なじみのない単語の意味を文脈から推測できる。
話題が身近なものであれば、時には知らない単
語の意味を文脈から推定し、文の意味を推論で
きる。
A2
日常の具体的な内容や話題の短いテクストや、
発話の全体の意味を手掛かりに、知らない単語
のおおよその意味を文脈から引き出すことがで
きる。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
(3)相互行為活動(やり取り)の方略につい
ての言語能力記述文
○ CEFRでは、相互行為活動(やり取り)
の方略について、
「やり取りは、複数の人物が合同でディスコー
ス(談話構成)を構築するときの特有の言語行
為だけではなく、受容的言語行為と産出的言語
行為の両方に関連している」
とし、以下の三つの例示的な尺度を示している。
・発言権の取得 / 保持
・協力
・説明を求めること
レベル 発言権の取得 / 保持
C2 C1 と同じ。
C1
ディスコース機能の中のいつでも使える範囲から、
自分の発言の前置きにふさわしい言い回しを適切
に選び、発言の機会を獲得できる。
また話の内容を考えている間も、発言権を維持で
きる。
B2
適切な表現を使って議論に途中から入り込むこと
ができる。
上手に発言権を取って、会話を始め、続け、終え
ることができる。
必ずしもスマートとは言えないが、会話を始める
こと、適切なときに発言権を取り、必要なときに
会話を終わらせることができる。
手持ちの言い回し(例えば「それは難しい問題で
すね…」等)を使って、言うべきことを言葉にす
る間、時間を稼ぎ、発言権を保ち続けることがで
きる。
B1
B1.2 適切な言い回しを使って、なじみのある話
題についての議論に途中からでも加わることがで
きる。
B1.1 なじみのある話題や、個人的興味のある話
題なら、対面での簡単な会話を始め、続け、終ら
せることができる。
A2
A2.2 簡単なやり方で、短い会話を始め、続け、
また終えることができる
A2.2 簡単な対面での会話を始め、続け、終える
ことができる。
A2.1 発話権を取るため、保持するために何らか
の言語行動を取ることができる。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
レベル 協力
C2 C1 と同じ。
C1 巧みに自分の話を他の話し手の話に関連付け
ることができる。
B2
相手の反応や意見、推論に対応して、フィード
バックを与え、議論の進展に寄与できる。
身近な範囲の議論なら、自分の理解したことを
確認したり、他の人の発言を誘ったりして、議
論の進展に寄与できる。
B1
B1.2 会話や議論を進めるために、基本的な言葉
や方略の中から持っているものを利用できる。
B1.2 議論の中で合意点を要約し、話の焦点を整
えることができる。
B1.1 誰かが述べたことを部分的に繰り返して、
互いの理解を確認し、計画どおり話が展開するの
に寄与できる。
他の人を話合いに誘い入れることができる。
A2 理解していることを身振りで示すことができ
る。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
レベル 説明を求めること
C2 B2 と同じ。
C1 B2 と同じ。
B2
相手の発言を正しく理解したかどうかを確認する
ための質問ができ、曖昧な点の説明を求めること
ができる。
B1
誰かが今言ったことの意味を明らかにするよう、
詳しく説明するよう人に求めることができる。
A2
A2.2 分からないときは、繰り返してもらうよう
単純な表現で頼むことができる。
A2.2 手持ちの表現を使って、理解できていない
キーワードや表現の意味の説明を求めることがで
きる。
A2.1 理解できないと言うことができる。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
(4)テクストタイプ
○ CEFRでは、テクストについて、
「それが話される場合でも書かれる場合でも、
一まとまりの言語表現を指すために用いられる。
言語使用者/学習者はテクストを受容し、産出し、
交換するのである。」
と説明している。
テクストタイプには、話し言葉(公共放送、演説、
講義、プレゼンテーション、スポーツ解説、
ニュース放送など)と
書き言葉(書籍、雑誌、新聞、使用説明書、教科
書、漫画、レポート、論文など)がある。」とし、
下のような例示的尺度を示している。
レベル ノート取り(講義やセミナーなど)
C2
話の含意やほのめかしに気付き、それらをメモし、
さらに実際に使った表現をノートに取ることがで
きる。
C1
自分の興味関心のある分野の話題の講義で、詳細
なノートを取ることができる。
記録された情報が非常に詳細で、話された内容を
忠実に再現しているから、他の人にもそのノート
が役立つ。
B2
言葉そのものに集中しすぎて、情報を時には聞き
逃す傾向もあるが、
身近な話題で明確に組み立てられた講義なら理解
でき、重要だと感じた点をノートに取ることがで
きる。
B1
B1.2 もし話題が自分の興味関心の範囲であり、
話がはっきりとしていて、組立てがしっかりして
いれば、
後で自分が使うためには十分精確なノートを講義
中に取ることができる。
B1.1 もし話題が身近で、簡単な言葉で表現され
ており、
はっきりとした発音で共通語による話し言葉で話
されれば、簡単な講義を聴きながら、重要な点を
リストにすることができる。
A2 利用できる言語能力記述文はない。
A1 利用できる言語能力記述文はない。
レベル テクストの処理
C2
異なる情報源からの情報をまとめ、論点や主張を
整理して、まとまりのある全体的結論を示すこと
ができる。
C1 長い、難しいテクストを要約することができ
る。
B2
事実や、想像上のことを記述した様々なテクスト
を要約し、対照的な観点や主要テーマについてコ
メントしたり、議論することができる。
主張、論争、議論を含むニュース、インタビュー、
ドキュメンタリーからの抜粋を要約することがで
きる。
映画や劇の粗筋と流れをまとめることができる。
B1
幾つかの情報源からの短い断片的な情報を他人の
ために要約することができる。
語調や、順序は元のままで、短い文章の一節を簡
単な形に言い換えることができる。
A2
A2.2 学習者の限られた能力と経験の範囲内で、
短いテクストからのキーワード、表現、短い文を
抜き出して、書くことができる。
A2.1 印刷物か、明瞭に手書きされた短いテクスト
を書き写すことができる。
A1 標準的な様式で印刷された単語、または短いテ
クストを書き写すことができる。
=======================
いかがでしょうか。
このように具体的な能力記述分を見てみると
それぞれのレベルがかなり解像度高くイメージ
できるのではないかと思います。
「A2だったら、私の担当の学習者で言ったら
●●さんかな。」
そんな感じにイメージなさると理解が深まる
かもしれません。