日本語指導の先にあるもの。
前回、
学習者が日本語レッスンで買っているのは、
実は日本語でも日本語能力でもなく、
「日本語を身につけた先にある夢」
だというお話をしました。
そして、
おそらく、特に新人の日本語教師の方から、
「明日の授業のことで頭がいっぱいなのに、
そこまで思考が回るわけないだろ!」
と言われそうだということを想定して、
「今は、それでいいのだ。」
というところまでお話ししました。
今日はその続きです。
どうして、新人教師はそれでいいのか。
それは、教師の成長にも段階があるから
です。
日本語教師は、基本的に日本語を売って
なんぼの商売です。
だから、まずは日本語の知識や指導スキル
を身につけなければなりません。
大学で日本語教育を学んだ方も、420時間
養成講座で学んだ方も、
そして、検定試験を通じて学んだ方も
それはそれで、大変な勉強を重ねてきた
わけではあるけれども、
それでも、現場に立てば、その2回りも
3回りも多くの知識やスキル、そして
強いマインドが求められるわけですね。
いくら授業準備をしても、次から次へと
分からないことが湧いてくる。
まるで、脳みそが日本語で飽和して赤く
腫れあがったような状態(笑)
かくいう私も、駆け出しのころは
まったくそうでした。
学習者の学習後の人生など、とても
想像する余裕はありませんでした。
ですが、安心してください。
3年から5年ぐらい死に物狂いで頑張
れば、だんだん腫れが引いてきます。
だんだん知識がこなれてきて、
少しずつ要領よく授業を回すことが
できるようになってきます。
そうすれば、日本語教育というものを
今よりも少し距離を置いて捉えること
ができるでしょう。
そうなったら、ぜひ学習者の
「日本語を身につけた先にある夢」
にまで視野を広げて考え、
彼らの夢に繋がる日本語教育のあり方と
いうものに思いを馳せていただきたいと
思うのです。
私があえてここでこういうことを言う
のは、
これはこれで実際にやろうとすると
結構しんどいことだからです。
日本語教育とはまた別の勉強が必要
ですし、幅広い人生経験も必要です。
なので、中には、
「私は日本語教師なんだから、私の
役割はここまで。」
と割り切って、それ以上のことをし
ようとしない教師もいます。
もちろんこの辺りは本人の自由意志
ですので、とやかく言うつもりはあり
ませんが、
多くの学習者は、自分の夢を実現する
手段として日本語を学習しているわけ
ですから、
それに沿った指導をした方がはるかに
彼らのニーズに沿ったものになるわけ
です。
さらに、この考え方がもたらすメリット
として2点あげられます。
1点目は、学習者の学習意欲を一気に
引き上げることができるということ。
学習者にとっては、正直、日本語の
勉強よりも自分の夢の方がはるかに
大切です。
だから、日本語の勉強をしなくても済む
ものならしたくないという学習者だって、
当然いるわけですね。
でも、そこで教師が、
「あなたの夢はこれでしょ。この
夢を手に入れるためには、日本語の
勉強が絶対必要だよね。
だったら、自分の夢のために頑張
ろうよ。」
と、学習者の夢に紐づける形で日本語
の学習を促すと。
そうすれば、学習者の中で日本語を学ぶ
確固とした理由ができ、
夢の実現のために勉強に拍車がかかる
となるわけです。
2点目は、より的確で多面的な進路指導が
できるということです。
例えば、目の前に将来日本でパティシエ
として働きたいという学習者がいるとし
ます。
もし、日本語教育しか頭にない教師で
あれば、
「そうか、じゃとにかく日本語の勉強を
しっかりやろう!あと知らんけど。」
みたいになってしまう。
あるいは、古い情報しか持っていない教師
であれば、
「パティシエだと在留資格が取れないから
無理。」
といったことを言ってしまうかもしれま
せん。
ですが、日ごろから学習者の夢に照準を
あて、それに沿った情報収集をしていて、
2019年に入管法の改正を知っている教師で
あれば、
「それなら、特定技能1号で在留資格が
とれるかもしれないよ。
でも、この資格を取るためには日本語の
試験と技能試験に合格する必要がある。
であれば、製菓専門学校への進学が考え
られるから、ちょっと自分で調べてみて。
ただし、この在留資格の在留期間は最長
5年だけど、そこは大丈夫?」
と、かなり突っ込んだアドバイスができる
わけですね。
で、ここまで詳しいアドバイスをされれば、
学習者の方は、
「この先生は、ここまで私の人生を真剣に
考えてくれているんだ。」
となって、全幅の信頼を寄せるようになる
でしょう。
とりわけ、法的知識は絶対必要で、しかも
この数年、改正や変更がむちゃくちゃ多い。
篠研が村崎先生の法令セミナーをする理由が
ここにあるわけです(詳しくは、下で)。
いかがでしょうか。
学習者が日本語レッスンで買っているのは、
実は日本語でも日本語能力でもなく、
「日本語を身につけた先にある夢」
だということ、
そして、その考え方に沿った指導がいかに
大きな価値提供をもたらすものであるかと
いうことがご理解いただけましたでしょうか。
特に新人の日本語教師の方。
今すぐやれとは言いませんが、いずれ必要な
ものだということは、知っていて損はないかと
思います。
ところが!ところがです。
優れた教師というのは、さらにその先を
行くのです。
続きは次回に。