総収入の10%を自己投資に回さない教師のなれの果て。
私がまだ本格的な日本語教育の勉強を始める前、
家庭教師かなんかで外国人に日本語を教えたこと
がありました。
文法かなんかをひとしきり説明した後、その学習者が、
「先生、今先生が言った『ン』は、『ン』ですか、
『ン』ですか、『ン』ですか。」
と聞いてきました。
その時の私は、まだ音声学の知識がなかったので、
「何言ってるの?そもそも言っている意味が分からない。」
と半ギレ状態。
つまり、質問の意味が分からなかったんですね。
もちろん、音声学の知識がある今なら、
「今の私の『ン』の音が、[m]なのか、[n]なのか、[N] なのか、確認したかったんだな。」
と理解することができますし、学習者のわかる日本語で
的確に説明することもできます。
もし、日本語教育の知識のない日本人が、同じような
質問をされたら、
「何言ってんだ!『ン』と言ったら『ン』に決まっ
てんだろ!」
と、最悪逆ギレされるかもしれません。
つまり、相手である外国人学習者の発言を正しく理解
するためには、
単にその学習者の日本語力の問題だけでなく、
聞き手である日本人側に相応の知識がないと、ちゃんと
受け止めることができないのです。
これは、専門知識のない一般の日本人の方であっても、
相応の知識を持つ日本語教師であっても、基本的には
同じです。
例えば、日本語教師が、
「あの学習者は、何回言っても言うことを聞かない。」
と愚痴るような状況があったとします。
ですが、だからといってそれだけでその学習者が反抗的な
態度を取っていると考えるのは早計です。
もしかしたら、その教師の日本語がちゃんと聞き取れ
なかったのかもしれないし、
ちゃんと聞き取れて文意は理解できていたとしても、
なぜそういうことを言われるのかが理解できない
のかもしれないし、
もしかしたら、自国の考え方とかなりかけ離れている
ため、どう解釈したらいいのか判断できないのかも
しれないのです。
もし、こういう状況のときに教師に
▼学習者が聞き取りにくい日本語の音に関する知識
▼学習者が理解しにくい日本人の言語行動
▼日本と学習者の国の考え方や行動様式の違い
についての知識があれば、その学習者の行動に対して
もっと違う解釈ができたかもしれないし、
より適切な対処によって早い段階で問題を解消する
ことができたかもしれないのです。
いや、そもそもそういう知識があれば、事前に、
「このままだと、たぶんこういう問題が起こる
可能性があるから、前もってこうしておこう。」
と想像力が働いて、それを未然に防ぐような手を
打つこともできたかもしれないのです。
こういう場合は、往々にして学習者の力ではどうにも
できないことが多いので、
そこはむしろ教師の方が学習者に合わせていくように
していかないと、解決は難しいのです。
であれば、教師は常日頃から積極的に知識を増やす
努力、自己投資をするべきですし、
知識を増やすことによって、多くの問題に適切に
対処できること、
さらには、少なからぬ問題を事前に回避する想像力や
術を身につけられ、
結果、余計な労力を使わなくてもよくなるという
ことを、強く認識するべきなのです。
最近、どれくらい自分に対する教育投資をして
いますか。
よく言われるのは、毎月収入の最低10%を自己投資
に回すべし、ということ。
これぐらいの自己投資を恒常的にしないと、変化の
激しいこの世界、あっという間に煮ても焼いても
食えない
「化石化教師」*
になるのは必至です。
*「化石化教師」とは、知識の更新がままならず、
いつまでも古い知識や指導スキルで跋扈する教師
のこと。
そうなれば、いずれ【戦力外通告】という最大最高の
損失を被ることになるのではないかと思うのですが、
いかがでしょうか。