『日本語教育の推進に関する基本的方針』を読む(その6)
『日本語教育の推進に関する基本的方針』を読む
の第6回目です。
報告書はこちら。
日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進
するための基本的な方針の閣議決定について:文化庁
https://bit.ly/3hTmIai
今回は、
「第2章 日本語教育の推進の内容に関する事項」
の4回目。
「1 日本語教育の機会の拡充
(1)国内における日本語教育の機会の拡充
ウ 外国人等である被用者等に対する日本語教育
エ 難民に対する日本語教育」
についてみていきます。
日本には、多くの外国人労働者の方がいます。
一部上場企業のエグゼクティブから、中小零細企業の事実上
単純労働、さらにはアルバイトをする留学生まで、
彼らはさまざまな業種・職種で日本の産業を支えているので
す。
であれば、彼ら外国人労働者との共生社会をどう築くかは、
非常に大きな問題です。
では早速。
以下、引用。
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ウ 外国人等である被用者等に対する日本語教育
我が国の外国人労働者数は約 166 万人(令和元年)となり,
身分に基づき在留する者や就労目的で在留が認められる者,
資格外活動等,その内容は様々である。
平成2年の入管法の改正以降,就労目的で来日する日系人の
増加及び平成 22 年の在留資格「技能実習」の創設等により,
我が国に在留する外国人労働者は増加を続けている。
また,看護・介護分野においては,二国間の経済連携協定に
基づく特例的な受入れ制度により看護師・介護福祉士候補者
が国内の受入施設において就労・研修活動を行っている。
日本で働くに当たっては,業務上必要となる専門的な日本語
のほか,職場において日本語で意思疎通を図ることができる
よう,生活に必要な日本語を身に付けることが必要である。
また,職場等における効果的なコミュニケーションのため受
入れ側の環境整備を図ることが重要である。
このため,職務に関連した日本語及び専門分野に関する日本
語や生活に必要な日本語を学習する機会の提供等の措置を講
ずる。
【具体的施策例】
・日本人社員の上司や同僚が外国人材との効果的なコミュニ
ケーションを行う上でのポイントやその学ぶ手法について
調査を行うとともに,
企業における効果的なコンテンツや学び方の活用を検討す
る。
・経済連携協定に基づく日本国内での日本語研修により,日
常生活や病院・介護施設における就労・研修活動に円滑に
従事できるよう
専門分野に関する日本語学習機会を提供する。
・事業主等がその雇用する外国人等に対して職務に関連した
専門的な知識・技能を習得するための職業訓練として専門
的な日本語の習得を実施する場合の支援を行う。
・看護・介護分野において,外国人が当該専門分野に関する
日本語能力の向上を図る場合の受入施設に対する支援や外
国人に対する研修等の実施,
外国人等が介護の日本語学習を自律的に行うための教材開
発・運用等の支援を行う。
・事業主が技能実習生に対し,日本語能力の更なる向上の機
会を提供することができるよう,教材開発等の支援を行う。
・定住者等身分に基づく在留資格の外国人が,安定的な就職
及び職場定着を図れるよう,
コミュニケーション能力の向上や日本の雇用慣行,労働関
係法令,企業文化等コミュニケーションを行う上で前提と
なる知識の習得を目的とした研修を実施する。
・就労者及びその家族を含む外国人等の日本語教育環境を強
化するため,都道府県及び指定都市が行う地域日本語教育
の総合的な体制づくりを推進する。
また,就労者及びその家族を含む外国人等に対する地域に
おける日本語の学習機会を確保するための取組及びICT
を活用した遠隔教育等の先進的取組を支援する。
エ 難民に対する日本語教育
我が国に受け入れた難民に対する日本語教育については,定
住支援の一環として,条約難民及び第三国定住難民に対する
支援を行っている。
特に第三国定住難民については,平成 22 年度からアジアで
初めて第三国定住による難民の受入れ6を開始し,
令和2年度からは受入れの対象,人数等が拡大されることと
なった。
国は,引き続き,条約難民及び第三国定住難民に対し,定住
支援施設における日本語教育や定住支援施設退所後の日本語
学習に関する相談対応等の必要な施策を講ずる。
【具体的施策例】
・条約難民及び第三国定住難民に対し,日本への定住に必要
とされる基礎日本語能力の習得のための日本語教育プログ
ラム及び教材の提供,
日本語学習に関する相談対応等の支援を実施する。
特に,第三国定住難民については,令和2年度からの受入
れ人数の拡大という政府方針を踏まえ,日本語教育プログ
ラム等の学習環境の一層の整備を進める。
・難民を含む外国人等の日本語教育環境を強化するため,都
道府県及び指定都市が行う地域日本語教育の総合的な体制
づくりを推進する。
また,難民を含む外国人等に対する地域における日本語の
学習機会を確保するための取組及びICTを活用した遠隔
教育等の先進的取組を支援する。
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こうした国の施策を読んで思うのは、
「日本語力ゼロの外国人が、職場で日本人と対等に渡り合って
行けるほどの日本語力を身につけるための教育コストを、国
はかなり甘く見積もっているのではないだろうか。」
ということです。
これは、過去の日本の施策を見るとよくわかります。
例えば、1991年の入管法改正で日系ブラジル人・ペルー人が
入国しやすくなりましたが、
そもそもなぜ日系人かというと、当時の法改正に携わった
代議士が、
「日系人なら日本語ができるだろう。」
と思ったからで、
実際にふたを開けてみると、全然できなくて泡を吹いたとか。
また、近い話ではEPA看護師・介護福祉士候補生で、
「丸1年も日本語を勉強すれば、職場でのコミュニケーション
もできるだろうし、国家試験も受かるだろう。」
という見通しの下で、来日前後各半年ずつ日本語を学習する
枠組みを作ったわけですが、
蓋を開けてみれば、国家試験にほとんど受からず、
挙句のはてには、合格率を上げるために国家試験の実施方法
の変更を余儀なくされるという事態にまでなったわけです。
これらはすべて、日本語教育コストをかなり甘く見積もってし
まったために起こったことだと私は考えています。
実際、ゼロ初級の学習者が日能試N2(職場でも意思疎通ができ
るレベルとすれば)レベルにまでなるには、
私の経験上、漢字圏学習者でも日本語学校で概ね1年半から2
年の学習が必要です。
日本語学校の年間授業時数は760時間ですから、ざっと1140時間
から1520時間。
これに、日本語教員の(労働に見合った正当な)時給をかけ合
わせると、グループレッスンであっても結構な金額になるで
しょう。
ましてや、非漢字圏ともなればそのコストは1回りも2回りも
膨らみます。
それを、例えば最低賃金ぎりぎりの単純労働で、しかも数年で
賄おうとしたところで、そう簡単に採算がとれるものではあり
ません。
従って、外国人労働者を受け入れるのであれば、日本語教育や
異文化理解教育にかける教育コストを差し引いても余りある
生産力の高い外国人を、
その才能をいかんなく発揮させる職場環境と、それに見合った
十分な待遇で雇用できる企業にのみ適用されなければいけない
はずです。
間違っても、経営状態の悪いポンコツ企業の延命措置として
低賃金の外国人労働者を利用するなどということがあっては
ならないのです。
そこの部分の詰めを官民挙げてしっかりしなければ、いずれ
高度人材からも単純労働者からもそっぽを向かれるだろうと
思います(一回それを経験したほうがいいかもしれませんが。)
皆さんは、どのように感じられましたでしょうか。