「あの赤のポストを曲がると、大学が見えますよ。」はなぜ誤りか。
形容詞の中には、
形容詞「赤い」に対する
「赤いN/赤のN」
同じく「大きい」に対する
「大きいN/大きなN」
同じく「多い」に対する
「多いN/多くのN」
同じく「遠い」に対する
「遠いN/遠くのN」(以上、Nは名詞。)
のように、2形態の名詞修飾用法を持つものが
少なくありません。
また、これは学習者にとっても使い分けが難しく、
下のような誤用を引き起こす一因ともなっています。
例)T:リーさん、学生セミナーはどうでしたか。
L:はい、とても良かったです。多い問題について
話し合いました。
T:(何が多いのかな?)
(新屋他(1999)『日本語教科書の落とし穴』アルクp.148。)
しかも、それらの使い分けのルールは、それぞれの形容詞
によって違うという所にこの問題の厄介さがあります。
例えば、「赤いN/赤のN」については、
(1)あの( 赤い *赤の )ポストを右に曲がると、
別府大学が見えますよ。(*は非文を表す。)
(2)この国では、普通郵便は( 赤い 赤の )ポストに、
定形外郵便は( 青い 青の )ポストに投函すること
になっています。
(1)のように、色彩について他に選択肢がなく
(日本は基本的にはポストは赤と決まっている。)、
対象全体の状態をそのまま描写する場合「赤いN」が
用いられます。
一方、(2)のように、いくつか選択肢の中から
特定の色を指定する場合「赤のN」を使うことが
できます。
こうした形容詞「赤い」と名詞「赤」の使い分けは、
(3)のように文末表現として使われる場合、より
顕著です。
(3)まだ信号が( *赤い 赤 )よ。青になるまで
待ちなさい。
特に中級以上になると、作文で上の(例)のような
文章をつくる学習者が少なくありません。
その時に、こうした形容詞の存在とそれらの違いを
知っておくことは、適切な指導をするうえで重要です。
通信講座「篠研の検定対策」の講義資料
「No.018 動詞・形容詞各論」
では、先の「赤い・赤の」に加え、「多い・多くの」の
違いも解説していますが、
1度、ご自身でも用例を集めたり、作例したりして
分析してみるといいでしょう。