管理職に外国人児童の日本語指導の必要性を理解してもらうには(3)
前回からの続き。
先日登壇したおおいた国際交流プラザ主催
「日本語ボランティア スキルアップ講座
「日本語教室(経験者)編」
外国人に日本語を教える方法
-明日から使えるプロの技-」
で頂いたご質問。
「管理職の方に外国人児童に対する日本語指導の
必要性をどのように分かってもらえるかが知りたい」
ここで、私は講演で以下の3つをご紹介させていただ
きました。
・臨界期仮説
・閾(しきい)説
・制限コードと精密コード
今回は3つ目の「制限コードと精密コード」について
説明しますね。
これもなかなか衝撃的というか、考えさせられる
研究です。
イギリスの社会学者バーンスタインは、いわゆる
「キレやすい子」と「キレにくい子」がどうして
生まれるのかについて研究しました。
その結果、
「キレやすい子」は両親共働きの下流階級に多く、
家に親があまりいないため、親からの言語的刺激
(例えば、絵本の読み聞かせや会話)が少ない。
そのため、表現力が乏しく、従って周りに仲間を
作りにくい、
また、自分の感情を言語的に整理するのも苦手な
ため、キレやすくなるのです。
一方、「キレにくい子」は家に大人(主に母親)
が常時いる中上流階級に多く、
家庭で日常的に母親からの言語的刺激を豊富に受
ける。
そのため、表現力が豊かで、従って周りに仲間を
作りやすく、
また、自分の感情を言語的に整理することもでき
るので、キレにくいのです。
「制限コードと精密コード」について、通信講座
「篠研の検定試験対策」の講義資料
「No.089 社会文化能力」
では、以下のように解説しています。
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【制限コードと精密コードー児童の学力と使用言語
の関係】
言語と社会に関連して、児童期の言語環境と人格形
成との関係を示す研究として、
児童の社会化における言語の役割について調査した
イギリスの社会学者バーンスタインの研究があります。
それによると、下層労働者階級の子どもたちには、
共通して言語表現力に乏しいことがわかりました。
具体的には、以下の通りです。
(8)(文が)短く、文法的に単純で、しばしば乏しい
シンタクスの未完成な文を用い、いくつかの接続
詞を単純に繰り返して用い、従属をほとんど用い
ず、情報を整然と提示しない傾向があり、形容詞
と副詞の使用が固定的・限定的で、非人称代名詞
の主語をあまり使わない。
しかも、それは理由と結論を混同し、“You know?”
などの「共感を求める遠回しな表現」にしばしば
訴え、慣用句を頻繁に用いるのであり、「言外に
含まれた意味の言語」である。
(ロナルド・ウォーハフ(1994) p.422)
このような制限的な言語使用を制限コードといいます。
一方、中流階級以上の子どもたちには、共通して言語表
現力が豊かであることがわかりました。
具体的には、以下の通りです。
(9)述べられる内容を規定するために正確な文法規則
とシンタクスを用い、接続や従属にいろいろな工
夫を用いる複雑な文章を用い、時間的、論理的性
格の関連を示す前置詞を用い、代名詞Iを頻繁に
使い、広い範囲の形容詞と副詞を注意深く用いる
のであり、発言内容に修飾語句を伴うことを可能
にさせる。(ロナルド・ウォーハフ(1994)p.421)
このようにさまざまな表現を使って伝達内容をより精密
に言語化する言語使用を精密コードといいます。
バーンスタインは、制限コードはどの社会階級でも使用
することができるが精密コードはどの社会階級でも使用
できるわけではないこと、
こうしたコードの違いはその子どもの近親者(多くの場
合母親)の影響を強く受けること、
学校では精密コードが多用されるため制限コードしか使
えない子どもは学校で不利な立場に置かれることが多い
ことを指摘しています。
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児童生徒期の言語サポートを疎かにして、
いわゆる「キレやすい子」を作ってしまったら、
本人はもちろん不幸なことですが、
社会適応も上手くいかない可能性が高まりますから、
地域の治安にも影響を与えるわけです。
逆に、児童生徒期の言語サポートをしっかりすれば、
ただ言語力のみならず、認知能力も高められ、
郷土愛のある優秀な人材の育成につながるのです。
そして、それは児童生徒期にしなければ、後で
いくらやり直そうとしてもできないのです。
不可逆的なんですね。
管理職の方や責任者の方には、そうしたことを
しっかり伝える必要があります。
最後までしつこく言いますが、
外国人、日本人関係なく児童生徒の言語教育というのは
私たちが想像するよりはるかに重要なことなのです。