著作権の例外措置とその条件。
通信講座「篠研の検定対策」11月30日配信予定
「No.105 知的所有権問題」
より。
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著作権の例外措置
ただし、以上のルールをすべてのケースに適用すると、例えば、
教材の一部を授業で使おうとして学生分コピーする場合も、いち
いち著作者の許可が必要となり、
著作者と利用者双方にとって大変煩わしく、結果的に著作物の健
全な利用や著作者の利益を損なうことにもつながりかねません。
そこで、著作権法では、いくつかの項目について例外措置が認め
られています。
以下に、日本語教育に関係する主な例外措置をあげます。
(8)1.「教育機関」での複製(第35条1項)
2.「教育機関」での公衆送信(第35条2項)
3.「学校教育番組」の放送やそのための複製(第34条)
4.「試験問題」としての複製(第36条)
5.「試験問題としての公衆送信(第36条)
6.図書館等での複製(第31条第1項)
7.「引用」(第32条第1項)
8.「行政の広報資料」等の転載(第32条第2項)
9.「新聞の論説」等の転載(第39条)
(文化庁(2017)pp.104-117より抜粋。)
ただし、これらの例外措置も著作者の利益や通常の著作物利用の
妨げにならないよう、適用に当たっては厳密な条件が定められてい
ます。
例えば、(8)にあげた「1.「教育機関」での複製(第35条1項)」
では、以下のような条件が課せられています。
(9)【条件】
1 営利を目的としない教育機関であること
2 授業等を担当する教員等やその授業等を受ける生徒等自
身が複製すること(指示に従って作業してくれる人に頼
むことは可能)
3 授業のためにその複製物を使用すること
4 必要な限度内の部数であること
5 すでに公表されている著作物であること
6 その著作物の種類や用途などから判断して、著作権者の
利益を不当に害しないこと(ソフトウェアやドリルなど、
個々の生徒等が購入することを想定して販売されている
ものをコピーする場合等は対象外)
7 慣行があるときは「出所の明示」が必要
(文化庁(2017)pp.104-105)
例えば、「1 営利を目的としない教育機関であること」という条件
をクリアするのは、
一条校と呼ばれる学校教育法第1条で学校と定められた幼稚園・小学校
・中学校・高等学校・中等教育学校・大学・高等専門学校・盲学校・
聾学校・養護学校。
あるいは、公益法人の1つである学校法人格を持つ学校と言えるで
しょう。
株式会社や任意団体は営利を目的とする団体とみなされますので、
たとえ日本語学校であっても例外措置の対象外と考えたほうが自然
です。
また、3に「授業のためにその複製物を使用すること」とあること
から、授業やそれに準じた学校行事(例:大学のゼミ合宿や課外活動、
文化祭)は、その適用範囲に含まれますが、
例えば、教育機関が運営するサイトへ掲載するなどは、授業の枠を超
えて不特定多数に公開することになりますので適用されません。
さらに、6に「ソフトウェアやドリルなど、個々の生徒等が購入する
ことを想定して販売されているものをコピーする場合等は対象外」と
ある通り、
問題集やワークブックは、たとえ授業で使う場合であっても複製使用
は認められません。
以上のように、著作権の保護や例外措置には厳密な取り決めがあるわ
けですが、教育現場は必ずしもこれらが順守されているとは言えない
状況が散見されます。
これについて文化庁は以下のような警鐘を鳴らしています。
(10)教育や福祉など、「公益」のための仕事をしている方々は、
こうした例外規定の適用を受ける場合が多くなります。とこ
ろで、通常「公益」を実現するための「費用」は国民全体の
負担(税金)でまかなわれますが、著作権者の制限の場合は
その「費用」を「権利者個人」に負わせています。このこと
を十分に認識しておく必要があります。「いいことをしてい
るのだから、無断で利用できて当然」などと思ってはなりま
せん。(文化庁(2017)p.97)
私たちも、教育に携わるものとしてよくよく肝に銘じておくべきこ
とだと思います。