どうして医者は患者に「どうしたんですか」と聞かないのか。
20年検定試験の指導に携わっていますが、
未だに
「検定試験の勉強って、面白いなぁ。」
と感じます。
▼日本語の奥深さも知ることができるし、
▼日本語教育業界の動向も俯瞰できるし、
▼授業ネタをいくらでも発掘できるし、
▼どの分野の研究にも話に関われるし。
驚き、感動、納得、覚醒(笑)
の毎日です。
ところで、
例えば、友人が指に包帯を巻いて目の前に
現れた時、何と言いますか。
「どうしたんですか。」
ですよね。
でも、指に包帯を巻いた患者が目の前に
現れても、医者は
「どうしたんですか。」
とは言わず、
「どうしましたか。」
と言います。
なぜでしょうか?
これ、ちゃんと理由があります。
これについて、
通信講座「篠研の日々成長」6月6日配信の
講義資料
「No.o29 モダリティ表現の諸問題(1)
で以下のように解説しました。
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「のだ(んです)」は、ある事態を前提として
(言い換えれば、先行文脈に関連づけて)、
その背後にある事情などについて何らかの説明を
求めたり、または説明を行ったりするときに用い
られます。
(1)A:どうして遅刻したんですか。
B:電車に乗り遅れたんです。
従って、「なぜ」「どうして」を伴って理由を
聞いたり、あるいはそれに応答する場合、
「のだ(~んです)」が出現しやすいといえます。
また、 「のだ(んです)」が疑問文で用いられる
場合、疑念・不審といった感情を伴うことが多い
です。
ただし、例えば医者が患者に病状を聞くような場合、
「んです」は用いられません。
なぜなら、その職務上、患者がなんらかの病気で
あることは分かっていることであり、ことさら
疑念を抱く必要がないからです。
(3)医者:( どうしましたか *どうしたんですか )。
(*は非文を表す。)
患者:頭が痛いんです。
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このように、何気なく使っている言葉にも
その背後にはちゃんとセオリーがあるんですね。
この「んです」は、初級であつかう文型ですが
「先行文脈に関連付ける」というのを導入で
プレゼンするのが、なかなか面倒で、
やってはみるものの、学習者にその意味が
イマイチ伝えきれず、
結果、この文型の導入に苦手意識を持っている
教師が少なくないようです。
ですが、「んです」の意味用法をちゃんと理解すれば、
学習者が分かる導入を授業で実現することができます。
今一度、「んです」の用法をしっかり調べておくことを
お勧めします。